【nrs】長崎の暴走列車、ブレーキを担当しております。【男主】 (ページ48)

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配信を始めました、というコラボ相手の通知を見て、声乗ってるかを確認する。

「あ、あー……あ〜、あ、乗ってる！」

数日前から約束していたゲーム配信のコメント欄はある程度挨拶が済んだあともなんだか賑わっていた。大方、彼がRTまでしたあの動画が話題の中心だろう。

「今日は〜、なるせくんとAPEXするよぉぅ、音量なんかあったら教えて〜」

そんなマイペースな彼の声で始まったが、コメント欄は一向に変わらず、天月くんもそれに気がついたみたいだった。

「あ〜……シノくんの動画、すごかったよね！」

そんな彼の声にコメント欄がまたざわざわ。
純粋な褒め言葉もあれば、皮肉めいたコメントだって流れる。
今彼はピアノを弾いているから、この配信は聞いていない。コラボすると言った時もアーカイブで追う、とさっき言っていたのを確認している。ほっとしつつ、彼にコメントを見られたくない、という不安で心臓が嫌な音を立てていた。

「ね〜、シノくんとはお話できないの〜？」
「本人がいいって言わんことには俺からはなんも言えないよ」

そんなにAと喋りたいのか、と思わず出た笑いに、天月くんは残念そうな声を上げた。

「……せめて、せめてピアノ聞きたいなぁ」
「え〜……、ねばるねぇ、天月くん」

彼はナチュラルサイコパスだとこの界隈で名高いが、空気が読めない訳では無いし、そもそもここまで粘る事だって少ない。相当ハマっているんだと分かるその声に、段々とコメント欄も天月くんの味方が増えていた。まぁ、天月くんを推してるんだから推しがしたいことが一番だよな、と思いつつ、俺はゆっくりと椅子から立ち上がった。
なるせくん？という問いかけは無視して、少しだけドアを開ける。

「……ちょっとだけだよ？」
「え？」

マイクの設定を変えて、隣のピアノ部屋の音を拾えるようにする。天月くんの配信を確認して、音を拾っているのが聞こえてから俺は黙り込んだ。

天月くんが息を飲む。
聞こえてきたのは、Aが弾く、楽しそうなピアノの音だった。

「今はこれで我慢してあげて。あいつホントに天月くんのこと好きだから、照れちゃうんだよ」

数分後、ピアノの音が鳴り止んでからそう言うと、天月くんはいつも通り通る声ではっきりと言った。

「いつかね！絶対話してみせるからね！！」

その後の彼は絶好調のプレイを披露し、事ある毎にピアノの感想を繰り返したのは言うまでもない。