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「A、最近なんかあったん?」

図星を突くようなその発言に、ドキリと心臓が跳ね上がった。
俺の目の前でちびちびとウーロンハイを傾けるこの男___luzは、時折こんな鋭いパスを投げてくることがある。それは彼が無自覚であったり、自覚があったりと状況によって違う。正直、いきなり個室の居酒屋なんて呼び出された時点で少し察していた。今回はどちらなのだろうか、と少し考えたが目を見てすぐに答えは出た。
これは、確信があるタイプだ。

普段、触れてほしくないところにはスルーをしてあまり触れてこない絶妙な距離をとるくせに、こういう時はスルーしてくれない。最も、今俺にはそれが救いとなっているが。

「……実はさ、」

そうして俺は初めて自身のことを他人に話した。
なるせ以外の人間が、俺の事を知るのは初めてだ。
普段は人の話を聞くようなやつでは無いのに、こういう時はしっかりと耳を傾けてくれる。こういう所が、彼の良さなんだろう。
全てを話し終えて、彼の顔を見ると、彼は不思議そうな顔で首を傾げていた。

「……お母さんが怖いからピアノが弾けないの?」
「まあ、要約すればそういうことだよね」

初めて聞く人間からしたら奇妙なのかもしれない。
相談する相手を間違えたかも、なんて思っていたら、当たり前のようにluzは口を開いた。

「ピアノって、Aが触らないと音も出せへん楽器やで。Aのお母さんはそれに全てを費やしたかもしれんけど、Aはそうじゃないやろ」

「……俺の全ても、ピアノみたいなもんだよ」

そうじゃなきゃ、こんなにあの楽器に縛られていない。

「……Aはピアノとお母さんをセットにしてるから全てになってるんやないの?ピアノはAの人生を左右するキーアイテムじゃないでしょ」

思わずluzの顔を見た。彼はふわりと微笑んでいた。

「Aが鍵盤を叩かなきゃ、音も出せんよ。ピアノがAを叱りつけたことなんてある?」

そうだ。
luzの言うとおり。
ピアノは、母さんとセットになっているから触るのがたまらなく怖いんだ。

ピアノは母さんの意志を引き継いだりしない。
そう思うと、なんだか気が楽になって、さっきまでの得体の知れない不安感が一気に抜けていった。

「確かに……。ピアノに叱り付けられたことなんて無いのに俺、何が怖かったんだろ」

「でしょ?」
そう笑って見せたluzにお礼を言うと、彼は気分が良さそうに残っていたウーロンハイを飲み干した。

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作者名: | 作成日時:2022年1月16日 22時

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