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「お疲れ様です〜」

シャッターが閉まった職場の、裏口から回って入ると、じいさんはご飯を食べていた。もうあと20分で開店だというのに、随分呑気なことだ。おじいさんの奥さんが作った、焼き魚を1口2口つまんでエプロンを身に纏う。今日の朝、業者が運んできた新着の本を入荷処理して、棚に並べていく。
あ、これ気になってたやつ。裏表紙のあらすじを軽く読んでいたらちゃんとやれ〜、とおじいさんの茶化すような注意を受けた。あんたもやってくれよ。
なんてことは言わず、適当に返事をして仕事を進める。気がつけば開店の時間で、シャッターを開け放って表の掃除をしようとして放棄を手に取ったら奥からおじいさんがやっとエプロンを身につけてやってきた。

「おぉ、表の掃除もありがとう」
「いえいえ。あ、店長が待ってた本、レジのとこに置いてあります」

本当かい?と目を輝かせるその様子は、まるで幼い少年のようでなんだかおかしかった。
足取りも軽くレジに向かう店長を目で追いながら、さていつ仕事について切り出そうかと悩み始める。
ここは俺が長年お世話になった場所だ。
俺が独り立ちできたのも、親と接触をできる限り減らせたのも、全部このお店と店長のおじいさん、そして奥さんのおかげだ。
そんな恩があるこの場所を、簡単に切り離すことが、果たして俺に出来るのだろうか。

あぁ、こういう所なのかもしれない。

かつて彼女に言われた言葉をぼんやりと思いだした。

「貴方って、しっかりしてるのに優柔不断でちょっとうざったいの。それに比べてしのくんは、」

ああ、出た。シノくん。
結局、共通の知り合いですらないから顔も知らなかったけど、俺とは違って少し抜けてて、でも決めるところは決める、かっこいいやつだったらしい。
顔も知らないシノくんが、俺の脳内で俺を嘲笑した。
なんだかそれに訳が分からないくらい腹が立ったので、今日中に絶対店長に言おうと、俺はそう決めてチリトリに落ち葉をかきこんだ。

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作者名: | 作成日時:2022年1月16日 22時

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