伍拾陸 ページ9
もう、しょうがない。
「…はるかさん?どうしたんですか?」
竈門さんが顔を覗き込んだ。
…匂いで、分かるのだろう。
でも、
「…なんでも、ないですよ。」
そう言って私は笑った。中身の抜けた愛想笑い。
多分、気付かれている。と思ったので、
「…すみません。この後、お館様の所に、用があるので、ここで、おいとまさせて頂きます…。」
私はそういって、その場から逃げた。
「っっ、Aさんっっ」
後ろから胡蝶さんからの声が聞こえた。
本当に、ごめんなさいっっ。
あのまま、あの場にいたら、また、泣いてしまうから。
お館様に用があると言うのは、嘘ではなかった。
以前、輝利哉様を町に案内して欲しいという任務の詳細を聞きに行く、という用があったのだ。
私なんかで、いいのかなという思いがずっと残っている。
こんな柱に案内されて、輝利哉様もお嫌ではないか。
嗚呼生まれ変わりたいのに、
コレ【悲哀】がいると、安心してしまうのは、なんでだろう。
**********
胡蝶side
「っっ、Aさんっっ」
私の叫び虚しく、Aさんは走っていってしまった。
「いって、しまいましたね。」
私はボソッと呟いた。
「…さっきのAさんの匂い、 とても悲しい匂いでした。」
矢張り、血鬼術のお話のせいですかね。
もう少し、時間を置いておいた方が、よかった。
まだ、Aさんの心は不安定だったのに…!!
「…私の、ミスです。
私が血鬼術のお話をしてしまったから。」
「いやっっ、そんな事っ」
「いえ、これは本当に私のせいです。
ふふ、でも大丈夫です。
こんなところでくよくよしていても仕方ありませんからね!」
嘘。
本当は胸が罪悪感で一杯。
でも、私がそんな態度をとっていたら駄目。
Aさんを治すためには、絶対に周りの人が負の感情を見せてはいけない。
竈門君も気付いているでしょうが、今はそっとしておいてほしい。
だから私は、口を開きかけた竈門君を遮るように言った。
「竈門君。
大事なお話があります。」
お願い。察して。このまま触れないで。
私の願いが届いたのか、竈門君は、…はい。と答えた。
ごめんなさい。本当に。
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ハルル - とっても面白いですね。続き楽しみにしています! (2021年4月2日 16時) (レス) id: 3ed8831ca6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蔚 | 作成日時:2020年1月13日 21時