伍拾伍 ページ8
「そういえば、しのぶさんは何か用があったんですよね?」
竈門さんが胡蝶さんに言った。
胡蝶さんは一瞬キョトンとした後、ああ!そうでしたと私に身体を向けた。
私も胡蝶さんの方に身体を向ける。
胡蝶さんの顔は、先程とは打って変わって少し厳しい顔をしていた。
「ええ…、今のAさんには、少し酷な話かとも思ったんですが…。」
胡蝶さんは、一回息を整えた後、こう続けた。
「先日、Aさんがかかった血鬼術について、少し…。」
嗚呼、なるほど
あの時言われた、隊士からの言葉。
思い出すと、少し、気分は暗くなって、自己嫌悪に陥りかけたが、
「…大丈夫、です。」
と答えた。
思い出すだけで、苦しい、悲しい気持ちがやってくる。
本当に自分は駄目なんだと考える。
でも、今は駄目だ、と。
折角、決意したんだから、と。
本当は、嫌。という気持ちを抑えて、
私は胡蝶さんと向き合っている自分の身体の背筋を伸ばした。
「…そうですか。
では、手短に話させて頂きます。
先日、Aさんがかかった血鬼術は、…んー、簡単に言うと【逆転】と言うものです。
現実の世界で本当に起こった事と正反対の事を、夢の中でその人に見せる、というものでした。」
「…正、反対のもの。」
「ええ、そうです。
なので、Aさん。酷な事だと言うことは十分わかっていますが、どんな夢を見たのか、教えてくださいますか?」
…夢。
あの隊士達からの言葉も、夢なんだろうか。
でも、そんな都合のいいこと、あるんだろうか。
いや、ないだろう。
でも、いや、でも、
心の中の葛藤。
夢であってほしい。
でも、夢じゃなかったかもしれない。
私は、悩んだが、結局その隊士達の事は伝えないことにした。
あの隊士達の言葉が本当だとしたら、あの隊士達は罰せられる。
でも、あの言葉は事実だから。
「…そうですか。なる程。
ありがとうございました。」
私は変わると決めた。
でも、まだ私には、
全てを曝け出す強さも、
自分を信じる事も、
出来るほど、強くはないの。
結局、この私。
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ハルル - とっても面白いですね。続き楽しみにしています! (2021年4月2日 16時) (レス) id: 3ed8831ca6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蔚 | 作成日時:2020年1月13日 21時