タイトル ページ1
ここ、渋谷の町に越して来て早1年。
上京して来た時はどうなる事やらとヒヤヒヤしていたが、なんとかやっていけそうだ。
東京の空気は常に変わっている。空気だけでなく、人の流れや電光掲示板の広告、電車や車、街のBGMなどすらも。
金曜日の仕事を終え、自分へのご褒美としてビールとおつまみをコンビニで買った帰り、私の足はある男の前で止まった。
「スゥ………スゥ………」
青い髪をした男は、パンツ一丁というなんとも恥ずかしい格好で寝転んでいたのだ。
げっ！！
私は汚物を見るような目で驚いた。
東京に来てからというもの、路上で寝ている人は何度も見てきたのだが、流石にパンツ一丁で寝ている人を見るのはこれが初めてだったのだ。
これは関わらない方がいい……と判断したのだが、私は彼を凝視したままでいる。
青い髪でパンツ一丁……もしかして……と思ったのだが、人違いだったら恥ずかしいのでもう少し観察してみる。
その予感を決定づけたのは、男が寝返りを打った際、耳元で光らせる“ダイス”が見えた時だった。
「有栖川帝統……さんですよね？」
男は瞳をうっすら開けると、
「ああ………俺の女神様……どうか慈悲を……」
寝ぼけているのか、瞼を開けたのも束の間、またスゥスゥと深い眠りに落ちてしまった。
この男、有栖川帝統は渋谷で知らない人はいない程の天才ラッパーでありギャンブル狂でもある、さぞかし有名な男だ。
寝ちゃった……起こすかどうか迷っていると、男はくんくん…と鼻を効かせまたうっすらと目を開けた。
「腹………減った」
さっきコンビニで買った唐揚げの匂いが彼の鼻にも届いたのか、ギュルルルル…とお腹を鳴らせた。
「あ、唐揚げ、いります？」
「いっ、いいのか？」
バッと勢い良く起き上がるものなので、私はビクッと体を反らした。
「はい……少しだけなら……」
「ありがてぇ〜〜〜〜！！サンキューな！！」
私は袋から唐揚げを取り出し、そのまま彼に手渡した。
むしゃむしゃと唐揚げを貪る姿は、昔飼っていた犬を連想させた。
何故か微笑ましくなった私は、腰を低くしたまま、彼の食べる姿を見ていた。
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作者名：かなめたん | 作成日時：2019年4月20日 17時
