8話 知らない女 ページ8
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「じゃあ、私そろそろ行くね」
小蘭に簪の使い方を教えてもらい、そろそろ帰るかと腰をあげたとき、小蘭があっ!と声をあげた。
何事かと思っていると、座っていた木箱の上からぴょんと飛び降り洗濯小屋の前で洗濯をしている下女に向かって大きく手を振り始めた。
少し気になって、猫猫も木箱から飛び降り小蘭の後ろから下女を眺める。
「Aー!!」
Aと呼ばれた下女は顔を上げると、小蘭を見て不思議そうな顔をした。しかし小蘭の後ろ、洗濯小屋の裏から顔をひょこっと出している猫猫を見るとパッと笑顔になった。
猫猫がここにいた頃には見ない顔だが、何故か見覚えがある気がする。まあ知らないうちにすれ違っていたのかもしれない。後宮は人が多いからありえる。
「その子が噂の子?」
「そう!猫猫だよ!」
「(噂?)」
噂とは何だろう。何か噂されるようなことをしただろうか。毒見の件は知らないはずだが。
「猫猫、こっちはA!猫猫が翡翠宮に行ってから入ってきた子だよ」
小蘭の紹介に頭に疑問符が浮かぶ。
翡翠宮に行ってからということは、以前に会ったことはないはずだ。しかしやはり何故か見覚えがある。
「よろしくね」
Aはそう言って笑うと左手を差し出してきた。愛嬌のある女だ。猫猫は素直に握手をして、よろしくと返す。
手を離したとき、少しの違和感が猫猫を襲った。
「……」
「…?どうしたの?」
「いや、」
が、猫猫は気づかないふりをした。いつもより少しだけ早く鼓動する心臓にも気づかないふりをした。
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作者名:7瀬 | 作成日時:2023年11月7日 22時