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その日はしとしととした雨の降る日だった。
「ねぇ、雨って嫌い?」
自席で本を読んでいる私に声を書けてきたのは隣の席の男生徒。
その生徒は特に目立ちもしないごく普通の男子生徒。
「雨は好き。曇りは嫌い。晴れはもっと好き。」
他の天気について聞かれるのも面倒だからと、確かにその時私はそう答えた。本に栞を挟んでは、男の目を見て「なんで?」と理由を訊いた。
男は「別に理由なんてないよ。」と笑みを浮かべながら云った。
第一印象は変な男だ。と思った。
誰に話したって共感は得られるだろう。初めて会った者に「雨は好き?」なんて聞く人なんて変人でしかない、と。
男は窓から雨を見つめながら
「俺は雨は嫌い。」
そう云った。
その表情が何処か悲しげで、私は「そう。」としか云えなかった。
本当なら私此処で「なんで?」と訊くべきだったのだろう。
それでも、訊いたらいけない気がして私は黙っていた。
長い時間が過ぎ去った気がした。
雨の音と他の喋り声が教室に響いている。
「何の本読んでんの?」
沈黙を破ったのは男だった。
「内緒。」
素っ気なく云っては、本を机に隠した。
「教えてくれてもいいだろ。」
「教えても、難しくて君には読めないよ。」
「んなもん、読んでみなきゃわからないだろ。」
確かにそうだ。でも、今読んでる本を誰かに云うと云うのは迚めんどくさい覚えがあった。
本のタイトルを云ったら、どんなストーリーかを説明しなくちゃならない。
私はそれが面倒だった。
だから黙った。
男は黙った事を拒否だと受け取った様で、愛想笑いを浮かべながら
「まぁ、此処に来て慣れない事は多いだろうけど分からない事があったら聞けよ。」
男はそれだけ云うと何処か云って仕舞った。
改めて時計を見ると、5分しか時間は経っていなかった。
チャイムがなるまで本の続きを読もうと本を開いて栞を取った。
この時は雨の音だけが私の耳に残った。
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作者名:海が見たい | 作成日時:2017年5月7日 21時