プロローグ ページ2
蝉の鳴き声も引いて残暑の季節
新学期が始まった。
数日前には文句たらたらだった近所の子供たちが、今では歓声をあげて通学路を駆け抜けていく
夕方のファーストフード店に集まる学生たちの服装は見慣れたプリーツスカートに戻りはじめた
そんな季節
わたしは重たいスーツケースに手を置いて、お昼前の人のいない最寄駅のホームで電車を待っていた
あの街に戻るのはわたしが小学生の時ぶりだ
懐かしい思い出が詰まったあの街の空気を吸うことに
なにも期待がないと言えば嘘になる
でも、そんなことよりも今は緊張で胃が張り裂けそう
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「声のお仕事がしたいんです。」
そういって専門学校に通い始めた私が両親を亡くしたのは今年の夏休み
お盆明けのオーディションに向けて練習がしたくて、母の実家への帰省について行かなかった
ついて行かない代わりに、帰ってくるまでに上手になってびっくりさせようと思っていた
でも、驚かされたのは私の方
詳しい話はまだ自分の心の整理ができていないので、自問自答の中だろうと語ることはできないけれど
私は自覚も覚悟もないままひとりになった。
私はもう子供ではないくせに、頼る人がいなくなって外の世界が急に怖くなった
明日からどうやって生きていけばいいのか分からなくなった
自立なんてとても出来ていなかったから
通夜の番に顔も知らない遠い親戚がせわしなく動く中、喪主をするべき私は放心状態で父と母の前に座り込んでいた
そんな私に声をかけてくれたのが母の古い知り合いで、私も小さな頃会ったことがあるという、とある女性
私の母によく似た、笑うと目元がとても優しい人
困った私に、うちにおいでと声をかけてくれた優しい人
私は今から「家に帰り」に行く
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作者名:ふうり | 作成日時:2018年9月8日 22時