ひぃ ページ2
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陽が昇る夜明け前、朝まだき。
寒空はまだ薄暗く、西の空には星がきらきらと輝いている。
此の時期の夜は肌寒く、起きようと思ってはいても中々起きれずに時間が過ぎていってしまう。長い時間自身の体温で暖められた温い布団から出るのは至難の技だ。
「ん〜」
そろそろ起きなければならない時刻だが、何せ布団の外はまだ寒いし俺自身まだ眠い。幸い後藤もまだ起こしに来ていな、
「やい!月見里!!」
「起きろ!月見里!!起きろ!!」
耳を劈く様な声と壊れそうな勢いで開けられた襖の音が静かな朝の空に響く。
「っるさいよぉ、お前。もう少し寝させろってぇ...」
聞き慣れた喧しい声に眠たい目を擦り、声のする方へ目を向ければ同期であり一番の理解者である後藤が仁王立ちで立っていた。
「そろそろ時間だぞ、起きろ」
「う〜、ん」
「おーきろっつってんだろ!!」
起きた振りをして目を瞑り、また夢の中へと飛び立とうとすると瞬く間に布団を奪い取られ、寝間着の胸倉を掴み、がくんがくんと勢い良く揺さぶられる。
「分かった、分かった!!起きるって!!」
「吐くから止めて」と更に叫べば、激しい揺れは止み「はよしろ」と言わんばかりの目で俺を見る。
急に布団を引っ剥がされた挙句、思い切り身体を揺らされて気持ち悪くなったので若干不機嫌になりながら立ち上がり、後藤から服を受け取る。
「さっさと着替えろ!」と目を吊り上げる後藤に怒鳴られながら、布団の中でだらだらと寝間着から黒子装束へと着替える。
途中でまた布団奪った事は絶対忘れないからな。
間。
「あーあ、今日も何事もないと良いけどさあ」
「それは無理だろ、特にお前は」
「...、だよなぁ」
昨日は何故か朝から時透様と一緒に空を見て、午後からは何故か不死川様のお稽古に陽が沈むまで付き合わされ、夜からは何故か蝶屋敷で怪我人の看病をしていた。
あぁ、少し思い出すだけでも胃がきりりと痛む。これはもう看病する側ではなく看病される側なのでは?とふと思うが、隠という立場上甘ったれた事は言えないので胸の奥へと押し込む。
今日も柱の方々に翻弄される1日を送るのかと溜息を零せば、「頑張れよ」と労る様に背中を撫でられた。
その優しさが心に沁みて涙が溢れそうになるが、後藤が俺に向ける同情の目に少し腹が立った。
すまん、後藤。ただの八つ当たりだ。
「同情するなら変わってくれよ!!」
「無理に決まってんだろ」
一刀両断。
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作者名:小花衣 | 作成日時:2019年9月23日 0時