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隆二 side
「まぐろのシャンプーさ!」
焦ったような声と共に、突然開かれた大広間の扉。
「予備がもうない…んだけ、ど……」
突然現れた制服姿の黒髪の女は、俺と目が合うと、語尾が小さくなった
「えっと…お客さん?」
首を傾げて俺を見て、口元を緩める少女の雰囲気を残した女
「お客さんじゃないよ」
沈黙が訪れる中、女を見上げながら、細く紫煙を吐き出した男が、柔らかな声で返した
「お客さんじゃないの?」
「…A、予備ちゃんとあるよ?おいで、」
首を傾げたまま、不思議そうに俺を見る女の一番近くに腰を下ろしていた男が、静かに立ち上がると、大広間の扉の前で突っ立っていた女の肩を押し、廊下に促しながら、柔らかな声で告げる。
「え、嘘…哲也くん、シャンプー移した?いつもの洗面所の棚にはなかったよー?」
男の後ろ手で大広間の襖が締められる瞬間、困惑した表情で隣の男を見上げた後、
何かを聞きたそうに振り返って俺を見る女と目が合った
ー昨日掃除した時移しちゃったんだよね〜ー
ーそうなの?予備あるならいいんだけど……ねぇ、哲也くんあの人、誰?ー
ー後でゆっくり説明するから、今はちょっと待っててー
遠のく声を聞きながら、男に視線を移すと、男は紫煙を吐き出したまま、穏やかに微笑んだ
「姪だ」
そう、小さく言葉を零した男を見つめる
こいつの、姪、ってことは、
『親、は』
掠れた声で呟いた俺に、小さく微笑みを浮かべたまま灰皿に灰を落とす男
「死んだ。12年前にな」
俺の眉間に皺がよったのが見えたのか、男は、煙草を深く吸いながら、柔らかく口角をあげる
「親戚、俺しかいねぇから。今は俺があいつの親代わりだ。やっとこの春、高校生になった。」
傷、つけてくれるなよ。
白い煙と共に吐き出された小さな言葉は、深い懇願を宿していた気がして。
思わず男の顔を見つめると、感情の読めない瞳と目が合った。
ー俺、死ぬの怖ぇから、守ってくれよー
あの時、悪戯にそういった男の言葉の意味を、なんとなく察した気がした。
俺も、本当は、守ってやりたかった。
母さんを、俺が守ってやりたくて、
母さんに、俺を守って欲しかった。
『…つけられねぇよ』
頭に蘇る青白く細い背中を無理矢理記憶の片隅に押しやり、そう声を漏らすと、
「……お前、良い奴だな」
灰皿の角でゆっくりと煙草を消しながら、静かに男が呟いた。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時