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夜とは違って爽やかな活気がある、杉尾地区一体を締める繁華街のど真ん中で、私は呆然としていた。

『事務所の場所、知らない…』

おじさんのビルに行って聞こうか、と一瞬迷ったが、以前怒りと動揺に身を任せて足を踏み入れたあのビルの扉をもう一度くぐる勇気はない。

亜嵐くんに電話をかけようと携帯を取り出した瞬間、画面が震えた。

『亜嵐くん、今どこ!友達って、誰!』

《何で急に切るんだよー!…杉尾の事務所だってさっき言ったじゃんー…友達って…ほら、前に来た、ドタバタしてない方の、確か……優芽ちゃん?》

亜嵐くんの言葉に繁華街の賑わいが途絶えた気がした。

優芽?具合悪いって、今日休んでたのに…

『あ、亜嵐くん!私、繁華街にいるの!今から事務所に行くから!場所教えて!』

私の言葉に電話口で沈黙した亜嵐くん

《じゃあ迎えに行くわ…どこ?》

『華龍通りから入ってすぐのコンビニ!郵便局の隣!』

《超近ぇじゃん!華龍通りの入口のコンビニね、OK〜》

『待っ、優芽もうお金っ、…』

借りたの、と聞こうとした私に電話が切れた音が聞こえる。

どういうこと?

おじさんの会社からお金借りるなんて、そんな、

落ち着きなく繁華街を見回すと消費者金融の看板が目に入る。

あういうところで借りるのとは訳が違うんだよ…?

焦燥感に駆られていると人混みの中に見慣れた姿を見かける。

「Aー!」

能天気に手を振る亜嵐くんに駆け寄る

『早く!連れてって!』

「ちょ、引っ張んないで!道わかんねぇのに前歩いてどうすんの?こっちね、」

路地に入った亜嵐くんについて行くと、濁った雰囲気の裏通りが姿を表した。

『優芽は何でお金に困ってるの?!まだ学生だよ!?まさかもう貸してたりしないよね?!』

「理由とかいちいち聞かないから。つーかさ、」

隣でまくし立てる私を見下ろす、その瞳が静かに冷たさを含む

「学生とか未成年とか知らねぇし、借りたいって来た奴には貸すし。…ちゃんと返せるかは別だけどな。」

亜嵐くんの吐き捨てるような言葉に、息を飲んだ

銀行でも、消費者金融でも借りれない人に簡単にお金を貸してくれる。簡単に貸してくれるけど、簡単には返せない。

「到着〜」

間延びした亜嵐くんの声に、目の前の薄汚れたテナントビルを見上げる

『どこっ、』

「階段あがってすぐ…」

亜嵐くんを押しのけて、コンクリートが禿げた階段を駆け上がる

背中を伝う汗に身震いをしながら、くすんだ色の扉を開けた

▽→←▽



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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時

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