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「…Aはやっぱり、幸次郎の娘だな」
沈黙のあと、小さく息を吐いたおじさんが、そう言って静かに笑った。
「あいつも、変に感が鋭かった…頭がキレる、できた奴だった、」
開け放たれた窓から見える庭に目を写し、ぼんやりと呟いたおじさんが、私に視線を合わせる
「…重昭さんとは務所の中で偶然会ったそうだ。写真を見て、俺の弟がいつの間にか結婚して、子供がいることを知って、驚いたと言っていた。」
『……』
おじさんの言葉に、腑に落ちる出来事があった。
あれは、高校生ぐらいの時。
庭の掃除をしていたまっちゃんに、用があった私は後ろから声をかけた。
振り向いたまっちゃんが、眩しそうに私を見て、黙り込んだ。
首を傾げる私にまっちゃんは、
「一瞬、雪乃さんかと思った。似てきたな。」
もう滅多に聞かない母の名前を口にして笑ったんだ
『そうかな?』
その時は何も感じなかったけど、今考えると、皆、お父さんとは面識があっても、お母さんとはないはずだった。
なのにまっちゃんは、母の名前を口にして、私をお母さんに似てきたと言った。
父の横で笑う、写真の中の母を見たからだ。
写真の余白に書かれた文字から、母の名前を知ったからだ。
なるほどな、と思った。
そしてやっぱ私何も知らないんだな、と思い知らされた。
真実は至る所に零れていたのに、拾い損ねたのは、私だ。
『…そっか…、それでおじさんはおじいちゃんにすぐに会いに行ったの…?』
若干の自己嫌悪に陥りながら話の続きを促すと、おじさんは小さく首を振った。
「行ってない。俺が初めて重昭さんに会ったのは、Aを引き取ってからだ。
…幸次郎と雪乃さんが死んだことを、伝えに行ったのが最初だ。」
『…っ、』
届かなくなった手紙から妻が死んだことを悟ったおじいちゃん…その後、娘も死んだことを知らされたんだ…
「…気が触れたんじゃないかと思うくらい酷く憔悴して悲嘆していた。…残されたAのことを思って、声を上げて泣いていたよ」
『…』
「Aに会いますか、と聞く俺に、小さく首を振った」
『…』
「“俺がいることをAには知らせないで欲しい。“そして、……“俺に孫はいない”、と呟いた。」
『っ、』
「重昭さんは、強い人だった。…俺だったら到底できない。脱獄してでも、会いたいと思う。しかし重昭さんはそれを自ら拒んだ。強く……そして臆病な人だった。」
そう静かに呟くおじさんの瞳に、一瞬猛々しい色を瞳に宿った。
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happytaimama(プロフ) - 今晩は。こちらの作品何度も読み返して読ませてもらっています。続きを読みたいので、パスワードを教えていただけますか?宜しくお願いします。 (2月16日 18時) (レス) id: 4f1df4c5a4 (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 感動しました。 (2020年12月16日 14時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
梨紗(プロフ) - もう更新はないのでしょうか……? (2019年1月25日 23時) (レス) id: 5703e26db8 (このIDを非表示/違反報告)
м i i(プロフ) - 続き楽しみにしています!! (2018年12月28日 1時) (レス) id: 223aa4411e (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 待ってますすすすby mj (2018年12月24日 18時) (レス) id: 866e6acc2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jiu. | 作成日時:2017年11月22日 11時