イエローリップ・ストーリー【S.S】３’ (ページ25)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:35,529 hit

＃９５ページ25

「後悔しないようにか…」

家に帰った瞬間に大粒の雨が空から落ちてきた。

ベランダからその様子を眺めている。

別にこれといったことも考えることなく、ただ、ボーッと。

一つ、考えていることがあるとすればそれは間違いなくAのこと。

ニノの言葉が昼からずっと俺の脳内を巡る。

今…

Aはこの雨音を聞いてどう思ってんのかな…

明日になればこの大雨が嘘かのように快晴になる、清々しい雨だと思うのかな。

それとも、空を厚く覆っている暗い雲から直線的に降る雨だと思ってんのかな。

…違う。

それを俺らが伝えるんだ。

今の天気はどんなだよ、って。

全部俺たちが伝えなきゃ、それがどんなに綺麗だって何も知らないAにとっては暗い世界となんにも変わらないんだ。

そんなこと、痛いほどわかっていたはずなのに。

なんでこんな時に思うんだろう。

俺は迷う暇なくAに電話をかけた。

出るかわからない、コールが数回耳に響く。

その度に俺の心臓はうるさく鳴り、緊張が増してしまう。

『もしもし…』

９回ほど、コールはなっただろうか。

諦めかけた時、俺の愛する人の恐る恐るとした声が耳に響いた。