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乃木流架side
医師に湿布を貼られたAと俺達は、充てがわれた病室のベッドの上で何かをするでもなく話すでもなく、ただ三人で時間が過ぎるのを待っていた。
『湿布くさい…。』
「あはは、仕方ないよ。」
太陽の光を浴びた事がない様な白くて細いAの手に貼られた湿布は、少し大きく見えた。Aの手の傷が、早く良くなります様に。そんな願いを込めて湿布が貼られた場所を優しく撫ぜると、Aは少しくすぐったそうに身をよじった。
『…湿布剥がしちゃダメ?』
「ダメに決まってんだろ。大人しく貼っとけ。」
棗に軽く頭を叩かれたAは、恨めしそうに棗を見るとすぐに顔を逸らした。そして不貞腐れた様に枕に顔を埋めて横になった。
「ねえA、もしかして眠いの?」
『んー、別に。』
「声が眠そうだよ。」
そう言いながら、俺はAの制御面にかかっている髪を掬った。その様子をジッと見つめる棗の表情は、多分俺しか知らない。ねえ棗、嫉妬してるの?でもごめんね。俺もAの事は、諦めたくないんだ。棗と争いたい訳じゃないけど、譲れないものがあるんだ。
「…流架、お前授業行かなくて良いのかよ。」
「え?」
「これからAと俺はこれを外しに行く。流架、お前は来んな。」
棗が言う“これ”というのは制御面の事だ。来んな、という言葉は厳しい様だけど、俺の事を心配して言ってくれていると理解している。そんな棗の優しさを知っているからこそ、俺は断る事が出来ない。そもそも、俺がAや棗にしてあげられる事なんて何一つ無いのだ。
「…うん、そうだね。俺は教室に戻るよ。」
「ああ。」
「棗、終わったら教室に来てね。Aにもそう言っておいて。」
「わかってる。すぐに戻るから待ってろ。」
そっとベッドから立ち上がる俺の制服の裾を、何かが引っ張った。もう眠ってしまった筈のAの手は、一度掴んだ俺の制服の裾を離そうとしない。無意識なんだろう。何だかとても嬉しい。自惚れてしまいそうだ。
『…行くの?』
「うん。Aもすぐおいでよ。俺、ちゃんと待ってるから。」
『わかった。』
教室に行くだけの話だろ、と呆れた棗の声は聞こえないふりをした。
「じゃあ、また後でね。」
「ああ。」
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名無し67465号(プロフ) - とっても面白いです!!3人の関係とか…ナルの今後とかほんとに楽しみです!更新待ってます! (6月10日 1時) (レス) @page40 id: 4d7900bf24 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - 初コメ失礼します!私、愛され&逆ハー大好物なので嬉しいです!学園アリスのキャラ全員推しなので嬉しいです!更新頑張ってください! (2023年4月27日 6時) (レス) id: 3b02df20c8 (このIDを非表示/違反報告)
MIMI(プロフ) - とっても面白かったです!忙しいと思いますが、続き読むの楽しみにしてます!! (2020年6月25日 6時) (レス) id: f110a4bf7d (このIDを非表示/違反報告)
椿 - 学園アリス、初めて読んだけどとても面白かったです。お忙しいとは思いますが、無理をせずに更新頑張ってください!応援してます!! (2020年4月18日 22時) (レス) id: 314144f7d7 (このIDを非表示/違反報告)
Σ(・д・) - とっても面白いです!続き頑張って下さい! (2018年2月26日 22時) (レス) id: b4b3e9b57b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マダム・リリー x他1人 | 作成日時:2017年1月21日 6時