夢のおくすり

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学校では何故か小塚に会わなかった。
会えると思っていた塾でも会わなかった。
若武にもだ。
塾の帰り道、黒木に聞いてみると、
「小塚先生は上杉に会いたくないそうだ。」
笑いながら答えた。

あいつら……逃げてるな……
どうせ俺に文句言われるのが分かっているんだ。

「ところで上杉先生、先生は良い夢見られましたか？」
ふいに振られた質問に一瞬身体が縮む。
隣を見れば黒木が嫌な笑みを向けている。
小塚から聞いたのか？それとも若武か？

「黒木は……お前はどうだったんだよ？」
「俺？ さぁ、どうでしょう？」
「なんだよ…教えろよ。」
もしかしたら俺には効かず、黒木には効いたかもしれない。
黒木は望んで飲んだ薬だから、良い想いしたのかもしれない……

「一言で言えば……“つかれる夢”だったかな？」
「それは…憑依的な“憑かれる”なのか、疲労の“疲れる”なのか、どっちだ？」
「どっちもだ。」

・・・・

もしかして…お前も猫になってたのか？

黒木は意味ありげな微笑を浮かべ空を見ている。
その表情は穏やかで、どこか幸せそうで……
「そうか……良かったな……」
そんな黒木の顔は見てはいけないような気がして、流すように目を逸らせた。

「良かった……か……いや、あの薬は失敗作だろ？」
思いがけないセリフに驚いた。

「だって、俺の望んだ夢は見られなかった。何故あんな夢を見たのか？考えてみたら、信じられるか？近所にできた新しいカフェの広告が要因だったんだ。」
「もしかして…寝る直前に見たのか？」
「正解。」
ため息をつくように答える黒木に、更に追求したくなる。

「あのさ、そのカフェって……猫カフェ？」
躊躇うように聞くと、今度は黒木が驚いた。
「うん、そうだけど？」

やっぱり！？
どうなってんだよ……小塚の薬は猫が出てくるようになっているのか？
て、ことは……黒木の夢にも立花が出てきたのか？

「黒木……あの……その夢に立……
「あ、アーヤだ。」
聞いてはいけない事かもしれない。
でも、胸がモヤモヤするのが嫌で勇気を出して聞きかけた途端、視線の先に立花の姿。

「姫が一人だ。送って行こうぜ。」
一瞬見せたパッと花が咲くような顔。
黒木は立花の後を追うように走りだした。

決して本人が気づいていない表情に問いたくなる。

なぁ、黒木……
仮にお前の夢に立花が出てきたのなら、それはお前が潜在意識の中に望んでいた夢だったんじゃないか？

さっきの顔は……やっぱ立花のこと……

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