*First Step* -今度こそ踏み出すために-

~第51歩。~ ページ14

「……それより、Aさんはどうしてこんな所に」
「あ、えとー……」

言えない。無我夢中に走り続けた結果街の外に迷いこんでパニックに陥ってたなんて、口が割けても言えないっ！

「道に迷ったのか」
「……そんなとこです」

なんかすごい恥ずかしい。
羞恥だけで顔がこんなに熱くなるなんて知らなかった。

「……飲むか」
そう言って手渡されたのは、お茶がたっぷり汲まれたコップ。水筒に付いているあのタイプだ。

「あ、いいで」
「一人で飲むのも寂しい」
「っ……じゃあ、お言葉に甘えて」
アカツキさんからそれを受けとる。コップの外側はほんのり温かかった。その熱が、冷えきった手のひらにじんわりと伝わる。

「ほら、今日は月が綺麗だぞ」
アカツキさんが空を仰ぐ。

主君にも見せてあげたい、と呟いたの聞き逃しませんでしたからね。ふふ。

わたしも空を見上げる。
……本当に綺麗だ。
ー月が、綺麗ですねー

ふとさっきの事を思い出して、少しうつむく。

何だか自分の中の、触れただけで手が真っ黒になるような、どろどろした嫌な部分を見つけてしまった。そんな感じがした。

自分が好かれていると舞い上がってた。

そうじゃないと気づいたはずなのに、それでもなお、自分以外にも優しさを振り撒いていると考えると、途端に胸がもやもやして苦しくなった。

ソウジロウ君は、みんなの『ソウジロウ君』だから。

その理屈を不可解だ、と叫ぶ自分が心の中にいるのだって、また事実。

ああ、何だか子供というか、わがままというか。
公園の滑り台を独占したがる幼児みたい、というか。

元の世界では兄弟はいなかったけど、親はわたしが物心ついた頃から共働きだった。

だからわがままはなるべく言わないようにした。元から引っ込み思案の性格だったから、迷惑をかけると思うとなおさら言えなかった。

そんなわたしにこんな一面があるなんて、気づかなかった。
しかもなかなか収束がつかない感情。

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