08.何が何でも ページ8
「あ、…あの、お久しぶり…です」
突然現れたセンパイの姿に挙動不審な私を見て、遠くからニヤニヤを隠せない先生。
センパイはどんどん私の方に近づいてくる。センパイが二宮先生に背を向けていることをいい事に、変顔をして煽ってくる。
「じゃ、俺は会議があるから行くわ。下校時間までには帰るよーに」
気が済むまで茶化し終わったあと、二宮先生は腕時計を確認して小走りで去っていく。
突然2人きりになってしまった。冷や汗がどんどんと出てきて止まらない。
「入らないの?中」
「あ、入ります!!」
久しぶりに見たセンパイの顔も、やっぱり気持ちがいいくらい口角が上がっていて、
やっと会えた、という実感にヒリヒリと浸る。
「偉いね、ちゃんと部活しに来てたんだ」
「いや、そんなことないです…」
実際、センパイが居なければ直ぐに帰っていたから、入部してから今までの間、何もしていない。
毎日部室に足を運んでいただけで。
「俺も来なきゃとは思ってたけど、ちょっと色々あってさ」
「色々…?」
「そー、受験ってやつ」
「あっ、…そっか」
そういえばそうだ。センパイは3年生で、早ければ夏から受験が始まる。
だから忙しくて来れなかったのか。
幽霊部員なのかと少しでも思ってしまった自分を呪いたい。
「進学先、決まってるんですか?」
「まぁ…ね。俺の希望校と周りの温度差がやべー」
「学力…的な?」
「俺の事バカだと思ってるだろ!」
「おおおお思ってないですよ!!!」
椅子1つ分開けた隣の席で、センパイが笑う。
閉め忘れていたドアから風が吹いて、カーテンが踊った。まるで今の私みたいに。
「いつも来てたの?部室に」
「まぁ…はい。でも誰もいないから、何していいか分からなくてすぐ帰ってましたけど」
「そうだよね、マジごめん。じゃあ約束しよ」
「約束?」
「そ、水曜日の放課後は何が何でも集まる!!!…って、どう?」
ドクドクと一向に落ち着かない鼓動。これから毎週1回は会えること、それを提案してくれたのが先輩だということ。
心が、体が、先輩が好きだと叫んでる。
「っ、はい!!!そうします!何が何でも!」
私の返事にニコリと笑うセンパイ。
いつも聞こえてくるはずのグラウンドの声すらかき消すぐらい、私たちの笑い声が響く。
*
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作者名:みう | 作成日時:2021年9月9日 11時