09.何も ページ9
｢で、健気に水曜日の放課後だけ会ってるんだ？｣
紙パックのココアを飲みながらミナミが不満げな顔をして見る。
何故か永瀬もいる中、3人で昼食を食べているとミナミが思い出したようにセンパイのことについて聞き出した。
｢永瀬くんどう思う？いくらなんでも健気すぎない？｣
｢アホやんただの、騙されてるだけやろ｣
｢ねー私もそう思う｣
何も言わない私に対して、2人はありもしない事を言い出す。流石にセンパイの事を何も知らないのに色々言われていい気はしない。
｢騙されてるってなにをよ！｣
｢自分のこと好きそうな女がいたら、年頃の男やったら遊ぶに決まってんの｣
｢センパイはそんなんじゃないし！｣
｢そんなんじゃないって…言いきれるほどそいつのこと知ってんの？｣
白米を口に頬張った永瀬に、ぐうの音も出ない。
センパイのこと、考えてみればそんなに知らない。
名前と学年、最近クラスを知ったぐらい。
登校の仕方は徒歩なのか、電車なのか。アルバイトはしてるのか。好きな人はいるのか。
…というか、そもそも彼女がいるのか。
｢ほらね、なーんもしらんよ、こいつは｣
季節はもうあっという間に夏を感じさせる季節で。
桜色だった葉っぱは、もうすっかり緑だった。日差しも強くなってきて、受ける風も生温い。
｢連絡先とかは？交換したの？｣
｢ううん、してない。でも連絡先交換ってそんなに大事？？｣
｢大事だよ、恋愛対象としてじゃなくたって、仲良かったら普通LINEくらい交換するよ｣
｢そんなもん？｣
ミナミに追い討ちをかけられて、ついに撃沈。センパイは、私のこと暇つぶしの相手とでも思ってるのだろうか。
｢私はAがいいなら何も言わないけど、気をつけなよ｣
｢俺はそんな男辞めといたほーがいいと思うけどね｣
｢もー永瀬くんは過保護すぎ｣
｢しゃーないやん、コイツ俺おらんとなんも出来んもん｣
もぐもぐもぐもぐ。卵焼きをひとくち。
頭の中に、センパイの顔が浮かぶ。
どうしたって思い出すセンパイの姿は、悪い人ではなくて、素直で笑顔が素敵な人なんだけどなあ。
*
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作者名：みう
| 作成日時：2021年9月9日 11時
