【仮住】明日もここで (ページ4)

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彼の顔の前でも手を振る。それから彼は少しした後、ハッと体を揺らした。
「あ、えと…はい…」
彼は言い淀みながらも、家へ着いてきてくれるようだ。有無を言わせぬ雰囲気で、無理やり言わせてしまったような気もするが…。
「じゃあ私の家はこっちなので着いてきてください。」
「は、はい！」
彼は少しカチコチした動きで、私の後ろを着いてくる。その姿が実年齢より幼く見えて、弟ができたような気持ちになる。
「そういえば、草薙さんはどうしてあそこに？」
私が無理やり連れてきてしまった様なものだ、もし用事があったのなら、土下座してでも謝罪をしなければいけない。
「あぁ、実は日記の残りページが少なくなったので買い足しに来たんです。」
「そうだったんですね！私は継続して続けるの苦手なので尊敬します…あ、勝手に連れてきちゃいましたけど時間大丈夫ですか…？もっと早く聞くべきでしたね…。」
「門限まで余裕があるので大丈夫ですよ。反省すべきことがない白紙の日記は、見返すととても気持ちがいいんです！」
いつもの生き生きとした調子が戻ってきたのを感じる。門限や白紙の日記など気になる単語はあったが、問題はなさそうで、ホッと胸を撫で下ろした。
────────
そこから少し歩き、私が住むマンションの前へ着いた。
「Aさんは、こ、ここに1人で…？」
草薙さんの驚いたような声が斜め後ろからする。
「はい。両親がかなりの心配性なもので…。」
私の両親は少々過保護で、オートロック付きでないと一人暮らしを許可してくれなかったのだ。ロビーを抜け、エレベーターに乗る。狭い空間で2人きりだと、何だか不思議な気持ちになる。恋愛感情ではない…と思いたい。その気持ちで、友情が壊れてしまうのが正直なところ怖いのだ。
ゆったりと時間が流れる。沈黙がエレベーターに充満しかけた時、目的の階に着いた音が響いた。
「あ、こっちです」
いつもより少し長く感じる廊下を進む。慣れた手つきで鍵を開けて、ドアを開ける。
「ここが家です。どうぞ」
「…え゛！？」
大きな声が廊下に響くと共に、草薙さんの顔が真っ赤になる。私だって男の人を家に招くなんて初めてだ。緊張しない訳無い。が、しかし彼を蒸し暑い外に放置する訳にもいかない。
「外で待たせてしまうのは申し訳ないので…遠慮しないでください。」
「は、はい！お邪魔します…」
玄関の明かりがいつもより眩しい。