32話 ページ33
「半間修二に絡まれただぁ？」
「んむんむ」
隆が作った炒飯を口に運ぶ。
鈍い痛みが走ったが無視だ無視。今は食べることが最優先。
うん、いつ食べても隆の料理は美味しい。腹が減ってるから余計に美味しく感じる。
「勝手に食うな」
「食材は自分のだもん」
「気色悪い喋り方すんな。どうして絡まれた？」
「んー？人探し」
「誰」
「忘れた」
「チッ……はぁ」
言う気がないことが伝わったのか舌打ちを1つされる。
悪いけど翔奏のことはお前にも言いたくないんだ。諦めてくれ。
片付けを終えた隆は自分の対面に座ると頬杖をついて此方を見てきた。
…………そんなに見られると緊張するんですが。
「お前暫く1人になるな。明日の朝は迎えに来るから部屋で待ってろ」
「休むのナシ？」
「つい最近学校サボった奴が何言ってんだ？あ？怒られ足りねぇならそう言えよ」
「行きます。行きます行きます。大人しく待ってます」
怖いよこのママ。何でそんな目が据わってんの？笑顔なのが更に怖い。
笑顔の隆からふいと目を逸らし、行き場のなくなった目線を携帯に移せば20時15分という数字が見えた。
そこでふと疑問に思ったことを口にする。
「妹ちゃん達は？この時間帯に2人だけ？」
「今日は母ちゃんがいるから大丈夫だ」
「それは……ごめん。もう帰っていいよ」
お母さんが帰ってきているならその時間を奪ってはいけない。
自分如き人間に時間を使うな。
家族がどんなものかなんて、忘れてしまったけれど。
それでも、何となく、隆の普段の言動を見ていれば、大切なんだということは理解できる。
…………家族、ねぇ。
炒飯を食べる手を止めて思案してしまう。
家族というたった3文字。されど3文字が心に巣食う。
「オレがしたいからしてんだよ。母ちゃんにも言ってあるから変な気ィ回してんじゃねぇ。今日はAといる」
「じゃあ餃子も作って隆」
「今の言葉撤回で。ちょっとは遠慮って言葉覚えろよ」
光の速さで撤回するじゃん泣くぞ？
「あー違う違う違う……お前と話してるとすぐ脱線する！とにかく、今日は心配だからお前が寝るまでいる！」
寝るまで…………ん？寝るまで？
なるほどなるほど。つまりはそういうことだな。
「優しくしてくれよ隆」
飲んでいた水をぶっかけられ、新品の包帯がおじゃんになったのはこの直後のことだった。
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作者名：雨野夜都 | 作成日時：2021年8月24日 5時
