29話 ページ30
「────ッ！！」
「──で───っ──」
耳に入ってくる歓声や怒号。
それから、人を殴るような低くて鈍い音。
あまりの騒がしさに段々と意識が浮上してくる。
「ぅう……」
「お、起きたかぁ？」
「あ……？」
起きた時に感じたのは冷たさ。床に転がされているようだ。
起き上がろうとするが頭を足で抑えられていて動けない。
嫌でも鼻につくタバコの匂いに気分が悪くなる。
「ピクリとも動かねぇから何回かマジで死人かと思ったぜ」
「誰ですか」
それぞれの手の甲に罪と罰の文字。この人はドストエフスキーでも尊敬しているのだろうか。
「半間」
「半間……」
まず此処は何処だ。やたら人がいるが皆して同じ服を着ている。
「黒脛さん！？」
「あ、起きたんだ。おはよーA」
ちょうどいいタイミングで現れたのはタケミっち君と自分を気絶させた張本人の羽宮君。
何がおはよー、だ。殴って気絶させたの君だろ。おかげで腹が痛い。
「タケミっち君まで…………あれ？場地君？」
辺りを見渡してみると、ある一角で大勢の人間が円を描くようにして立っていた。
その中心にいるのは反対色の黒い服を着た場地君。
場地君の眼下には場地君と同じ服を着たボコボコの少年。
どうやら人を殴っている音の出処は場地君のようだった。物騒極まりない。
「一虎君……何やってんすかコレ？」
「何って……踏み絵。場地の信仰試してんの。東卍から芭流覇羅に宗旨替えするならそれなりの覚悟が必要だろ」
羽宮君曰く、場地君が殴っているのは自分が隊長を任されている隊の副隊長らしい。
………タケミっち君がこの前の夜に言ってた件かな、これ。
えげつないことするね不良って。可哀想に。
理解はできた。しかし羽宮君が喋り続けているのを横目に自分は疑問が湧くばかり。
何故自分は連れて来られたのか。
頭の中はそのことでいっぱいだった。
「何で自分は連れて来られたんですか」
「お前は別件」
「帰りたいんですけど……」
「無理」
即座に却下された。
…………これ帰れるの当分先だな。
自分の小さな呟きは誰に拾われることもなく消えていった。
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作者名：雨野夜都 | 作成日時：2021年8月24日 5時
