ヘアカット(祈り)3 ページ47
「あの時、『赤井秀一』以外に戦闘機を
ライフルで撃ち落とす人がいるなんてって
驚いたのよ。」
フフッと微笑んだものの、その笑顔はすぐに
消えた。
「あなたの動画を見てまだ間もなかった
から、ヘンに期待しちゃって。
でもライなわけないってベルモットにも
言われて…。
ショックだったことを覚えているわ。」
昴はそれを聞いて黙り込む。あの動画を
見たラスティーの動揺は大きかった。
発作的に自身の喉を貫こうとしたほどだ。
それから間もなくキュラソーの死。
彼女にとっては本当に苦しい時期だったに
違いない。
ため息しか出なかった。
「故人に何を祈ったのですか?」
「子どもたちを守ってくれてありがとうと、
出来れば死なないで欲しかったって事と…
どうか安らかに…って。」
花束を見つめるさくらの瞳は悲しみに
揺れていた。
「そういえば…カルバドスが死んだ場所に、
花を手向けたのも…あなたですか?」
「…ええ。」
ベルモットが灰原哀を亡き者にしようとした
一件。
赤井は物陰に潜んで狙撃をしようとしていた
カルバドスの両足を折り、動けなくして武器を
奪っていた。
『もはやこれまで』と悟ったカルバドスは隠し
持っていた拳銃で自決していた。
そのカルバドスが自決した場所に小さな
花束が手向けられていたと、以前ジェームズ
から聞いたことがあった。
「そうでしたか…。」
昴はため息をついた。
「あなたはどこまでも優しいですね。でも、
その優しさが時にあなた自身を傷つける…。」
そんなお前を見るのは辛い…。
最後の言葉は飲み込んだ。
「良いのよ。傷ついても。生きていれば
その傷はいつか癒えるわ。私は生きている。
その傷の痛みを知っているから、また誰かを
守ろうと思えるの。それで良いのよ。」
さくらの言葉に思わず昴は目を開けた。
『そうやって何度も傷ついてきたんだな…
お前は。』
人を助けるという事は、口で言うほど簡単
ではない。多数を救う為に少数を切り捨てる
ことだってある。
そんな修羅場を自分たちはいくつも越えて
きた。正に苦渋の決断。その度に心が悲鳴を
上げる。自分の判断が本当に正しかったのか。
それはおそらく自分が死ぬまで続く問いだ。
それでも守り続けるのは…受ける傷以上に
大切なものを、人々から得られるからかもしれ
ない。
さくらの顔を見ていると、そんな気がした。
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作者名:aki | 作成日時:2020年1月22日 13時