雨のち笑顔3 ページ28
『唯一の肉親?』
景光は驚いた。
自分も早くに両親を亡くし、親戚の家で
育てられた。だが離れて暮してはいるものの、
頼れる兄がいる。それだけで心強かった。
『広瀬には…もう家族がいないのか?』
彼女の悲しさや寂しさを思うと、
ズキリと心が痛んだ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。
祖母の事はずいぶん前から覚悟はできて
いました。さすがに目の当たりにして…
堪えましたが、明日からは大丈夫です。」
「そうか。お前は成績もいいし、訓練も
申し分ない。みんな期待している。
頑張れよ。」
「はい。ありがとうございます。」
そういうと、りおは自分の教場へ戻って
いった。
「諸伏。そこにいるんだろう。」
ついさっきまでりおと話していた教官が、
パーテーション越しに声をかけてきた。
「えっ!! あ、はいッ!」
慌てて教官の元へと駆けつける。
「教官室で盗み聞きとはいい度胸だ。」
「も、申し訳ありませんっ!」
ガバッと頭を下げた。
「お前…広瀬に惚れてるだろ。」
「えッッ?!」
突然の指摘に返す言葉も見つからない。
「お前達…境遇が似ている。お前も早くに
両親を亡くしていたな。広瀬もそうだ。
先日唯一の肉親だったおばあさんが、
病気で亡くなったんだよ。涙一つ見せないが、
ここ数日の様子からするに相当堪えている
はずだ。まあ、相談相手になってやってくれ。
アイツは優秀だが…どこか儚げでな…。
そんなところは絶対ほかのヤツらには見せ
ないんだが…。俺の長年のカンってヤツが、
広瀬の将来を心配しているんだ。」
いつもは厳しい教官の目が、その時だけ
優しさをたたえていた。
「はいッ!」
景光は力強く返事をした。
その日の夜
自習室にりおの姿があった。
休んでいた間に遅れた分を取り戻そうと
一人本を広げ勉強していた。
「広瀬。」
声を掛けられ顔を上げる。
「先輩どうしたんですか? こんな時間に。」
「ん? ああ、今通りかかったら姿が
見えたから…。」
そう言いながら、りおに近づいた。
本当はりおの事が気になって、『遅れた分の
勉強をしに来るんじゃないか』と思い
自習室へは何度か足を運んでいた。
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作者名:aki | 作成日時:2020年1月22日 13時