疑惑2 ページ17
「じゃ、じゃあ、100歩譲って私がその
《秀兄》を知っていたとしたらどうするの?
そのお兄さんはすでに亡くなっているんで
しょう?」
世良が兄の事を知ってどうしたいのか。
まずはそれを知ってから対策を考えようと
さくらは思った。
「ボクね、秀兄とは兄妹といっても一緒に
暮らしたことがほとんど無いんだ。
どんな食べ物が好きかとか、どんな生活を
していたのかとか、好きな女性のタイプも
知らない。
すぐ上の兄や母親は、秀兄のこと良く分かって
るのに。ボクだけ知らないんだ…。」
そう話す世良の顔は寂しそうだった。
「ボクが唯一知ってる秀兄は、とても強くて
頭が良くて、クールだけど優しくて…。
だから、死んだなんて嘘だ。秀兄が死ぬはず
ない。絶対に。」
泣き出しそうな顔をして、思いを噛みしめる
ように言葉にする。
兄への強い『愛情』と『悲しみ』を感じて
さくらは心が痛んだ。
「だから、ボクの知らない秀兄をもっと
知って、今一体何をしているのか、どこに
いるのか探し当てるんだ。必ず秀兄は生きて
いるから。」
世良の言葉は、彼女の意志の強さを物語って
いた。
『強い子ね…。』
さくらは目を閉じた。かつて自分も赤井秀一の
死に衝撃を受けた一人だ。
世良の気持ちは痛いほどわかる。
だが、『秀兄を探し出す』という彼女の思いを
知れば知るほど、彼が生きていることを
知らせるわけにはいかない。
そうしなければならないほど、組織の闇は
深い。
「いつかその思いは報われるわ…。それまで…
ごめんね…。」
さくらはそっと心の中で謝った。
「だから! もし秀兄のこと知ってるん
だったら…ッ!」
「ごめんなさい。」
さくらはうつむいたまま謝罪する。
「残念だけど…本当に知らないの。力になれ
なくて…ごめんね…。」
「そ、そんなはずないッ!!」
世良はさくらの両肩に掴みかかる。
ドンッ!
その勢いでさくらは外壁に背中を打ち
付けた。
「ッ!」
「お願いだ!! 本当の事を話して! さくら
さん…あなたは秀兄を知ってるはずだ!」
世良の手に力が入る。
さくらの肩と背中にジワジワと痛みが走った。
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作者名:aki | 作成日時:2020年1月22日 13時