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しんと静まり返る部屋に、心までがその冷気を吸収して冷え込んでいく。


Aが居なくなった空間はまるで伽藍堂のようで、灯りの消えた暗い部屋に一人取り残される。


あいつの私物は、俺がいない間にすっかり片付いていた。


考えるほどに腹が立つ。
散々俺に好きだとかなんとか言っていたくせに、突然ころっと態度を変えて出ていった。


まぁ、所詮その程度だったってことか。
そもそも俺は、あいつに好かれるような振る舞いができていたわけじゃない。


Aに中途半端な態度だったのは自分だ。結果、愛想を尽かされた。
自分が全部悪いことくらい、とっくの昔からわかっていた。


あいつが置き忘れてった、インドの神様だかのぬいぐるみがぽつんと寂しげに佇んでいて。
それを手に取ってまじまじと見つめる。




「……可愛くねぇの」




全然可愛くない。
なのに、どうしてこんなヘンテコなぬいぐるみがこれ程までに俺の心を抉るのか。


これを大事にしてたAの顔が思い浮かんで、こんなものにすら感情を動かされる。




Aと話したい。
いや、話せないわけではないけど、それは単なる業務連絡ばかりで。


最近あいつはよく、三途と一緒にいる。
というより、三途に一方的に絡まれているようで。


それをAは迷惑そうにしながらも、本気で拒んだりはしていないようだ。


仲悪かったんじゃねぇの?
何があったのかは知らねぇけど、あの二人が前よりずっと親しげなのが気に入らない。


元はと言えば発端は三途だ。
あれがAにちょっかいかけるせいで、俺は馬鹿みたいに苛立って。




『っ、A……』




名前を呼んでも、俺の声だけが広い部屋に反芻する。
いつだって肝心な時に、Aは傍にいない。


………あぁ、いい加減仕事でもしようか。
こういう時はただ一心に、何かに没頭するのが一番だ。


今日何杯目かわからないブラックコーヒーを飲み、Aの為にやめていたタバコを吸った。




久しぶりに嗜んだその味は、以前よりずっと苦く感じて、二本目を吸う気にはなれなかった。






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蜜柑(プロフ) - 夢見心音さん» 夢見心音さん、コメントありがとうございます✨もっと素敵なココくん・春千夜を書けるよう頑張ります✨ (2022年2月23日 10時) (レス) id: 6c0400a92a (このIDを非表示/違反報告)
夢見心音(プロフ) - ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙好きです (2022年2月23日 2時) (レス) @page34 id: 6c0a89f163 (このIDを非表示/違反報告)
ちえ - 決して器用ではないけれど不器用で一途な一くんが大好きです💛💛💛 (2021年11月5日 16時) (レス) id: 0560ab194e (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - ちえさん» ちえさんまたコメントありがとうございます!決して器用じゃないけど心配性で一途で神経質なココくんが好きです✨ (2021年11月2日 23時) (レス) id: 6c0400a92a (このIDを非表示/違反報告)
ちえ - そんなココちゃんの不器用部分も含めて全部大好き君のことが好きなんだ (2021年11月2日 18時) (レス) id: 0560ab194e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蜜柑 | 作成日時:2021年9月17日 18時

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