【文スト】*主 従 関 係*〜第二幕〜【中原中也】

其の弐 ページ43

芥川が去った後、周りを伺うように太宰の視線は彼方此方に彷徨う。そして欠伸を漏らす。

｢(予想通りなら今頃彼方も……)｣

太宰は自分の手首の手錠を視線を向け、呟く。


｢……頃合いかな。｣

｢＿＿＿相変わらずの悪巧みかァ太宰！｣


覚えのある声に太宰は目を見開いて音のする方に顔を向けた。それは黒い帽子に黒いチョーカー、小柄な体。太宰が最も忌み嫌う相手。


｢こりゃ最高の眺めだ。百億の名画にも優るぜ。｣

｢最悪、うわっ最悪。｣

｢良い反応してくれるじゃないか。嬉しくて縊り殺したくなる。｣


それは突然の元相棒との四年ぶりの再会。傍から見れば良く聞こえるが太宰にとっては最悪の再会。太宰は顔を顰めて中原を見る。


｢わあ、黒くてちっちゃい人がなんか喋ってる。
前から疑問だったのだけどその恥ずかしい帽子どこで購うの？｣

｢云ってろよ放浪者。いい年こいてまだ自 殺がどうとか云ってんだろどうせ。｣

｢うん。｣

｢否定する気くらい見せろよ…Aに太宰が囚われたと聞いてみりゃ今や手前は悲しき虜囚。泣けるなァ太宰。

否、それを通り越して＿＿＿少し怪しいぜ。
丁稚の芥川は騙せても俺は騙せねぇ何しろ俺は手前の″元相棒″だからな。……何をする積りだ。｣

｢何って…見たままだよ。捕まって処刑待ちだよ。｣


ひらひら手首に付けられた鎖を中原に見せる太宰。その様子に中原の周りの空気が一気に冷たくなる。


｢″あの″太宰が不運と過怠で捕まる筈がねえ。
そんな愚図なら俺がとっくに殺してる。

俺が態々ここに来たのは手前と漫談する為じゃねぇ。｣

｢じゃ何しに来たの。｣


中原は口角を上げて告げる。


｢嫌がらせだよ。｣

｢……！｣

｢あの頃の手前の『嫌がらせ』は芸術的だった。敵味方問わずさんざ弄ばれたモンだ。
だが＿＿＿｣


その瞬間に中原は太宰に繋がる鎖を一蹴りで壊す。


｢そう云うのは大抵、後で十倍で返される。

手前が何をたくらんでるか知らねぇが＿＿＿これで計画は崩れたぜ。｣


｢俺と戦え太宰｣中原が太宰を指さして云う。


｢手前の腹の計画ごと叩き潰してやる。｣

｢…中也。｣

｢あ？｣


太宰は指を鳴らす。中原は首を傾げると同時に太宰に付けられた手錠が金属音を立て、床へ落ちる。そして嘲笑してピンを中原に見せる。


｢君が私の計画を阻止？…冗談だろ？｣

｢何時でも逃げられたって訳か。
良い展開になって来たじゃねぇか！！｣

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