流感日和4 ページ9
「ええと、そう、そんなわけで、君の事は会った事は無かったけれど知っている」
「そ、そうなんですね。…鳥柱様とは長い付き合いだと、さっき兄貴から聞きました。あの、もし良ければ…鳥柱様、兄の話を聞かせて貰えませんか?俺、昔別れたまま、それからのこと全然知らなくて。…強いのは勿論だと思うんですけど」
「Aでいいよ。そうだね、彼とは確かに大分長いかな…」
朝日の中で途方に暮れていた時に出会った話、夜中に二人で寒さに縮こまっていた話、鬼殺隊に入るために唯ひたすらに鍛錬した話、とりとめのない話を、布団にくるまりながら熱でふわふわした思考のままに呟いていく。
玄弥は飽きもせずに、枕を抱えてきらきらと幼子の瞳そのままに熱心に私の話を聞いている。赤ら顔はきっと風邪の所為だけではない、本当に兄を慕っているのだろう。
「…本当に、強いよ。よく助けられた」
「へへへ」
「今日も私がこんなになってしまって世話をかけてしまったからね、今度お礼しないと」
「あ、でも」
「ん?」
「…昔、やっぱり今みたいな風邪で動けなかったことがあってさ、あ、いや、あったんです。就也やこと達、えっと、弟と妹みんなにも伝染ってしまって。兄貴と母ちゃんだけが元気で、やっぱり今みたいにお粥…だと思います、を作ってくれたんです。旨いですよ、すごく」
「ふふ、それは楽しみだ。でも大変だったね、その後お母さんやお兄さんは大丈夫だった?」
「実は、兄貴にだけその後伝染っちゃって、しかも僕等のより重くて。皆で看病しました」
「あらら、それは大変。今回は気を付けて貰わないと、風邪柱様には」
「大丈夫じゃないですかね?なんたって風邪柱様だし」
「…楽しくご歓談あそばしてンじゃねェか、病人さんたちよォ」
「ひぇ!実弥、いつからそこに」
「俺に礼をするって処からだァ」
突然背後から声かけなくても、とぼやいたら全然突然じゃねぇ、気配にも疎くなってやがるなァ、と怒られた。
「びっくりした…」
「玄弥ァ、手前体力ねェのに妙な事すっから、風邪なんかに掛かるんだろうが。俺の屋敷に病ばら撒く気か?あ?」
木のお盆と湯気の立つ粥皿に、さっき鴉から受け取ったという胡蝶印の薬。それらを持った、隊服の上から前掛けを着込んでおたまを逆手で構えた風柱の姿。
背中の殺の字が倒錯的過ぎる。
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作者名:aka | 作成日時:2020年1月8日 9時