Astilbe Ⅱ (ページ21)

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川西拓実ページ21

キラキラした笑顔が好き

耳を真っ赤にしながらでも素直に好き、と伝えてくれるところが好き

2人きりになると甘えん坊になるのも好き

私が辛い時、寄り添って側に居てくれるところも好き

拓実のことが好き

本当に本当に大好き

だから

「さよなら、しよっか」

「…は？」

最初はあのキラキラした笑顔に惹かれた

照れくさそうに耳を真っ赤にしながら告白してくれたのも

初めてハグをした時に聞こえた私よりも早い心音も

いろんなところへ行ってたくさんの写真を撮ったのも

全部、大切な思い出

…拓実にはたくさんのものをもらってばっかりだ

拓実には夢があるのを知っている

知っているからこそ、私はここで身を引かねばならない

「オーディション、受けるんでしょ？」

「…なんで」

「…この間、たまたま書類が見えちゃった」

「…」

拓実は何も言わない

何を言うべきか迷っているのかな

「私はね、拓実のキラキラした笑顔が本当に大好きだよ。ずっと見ていたいくらいに。でもその笑顔を私1人が独占するのって勿体無いと思うんだ」

「…」

「ダンスも歌も経験ないかもしれないけど、拓実のセンスと負けず嫌いなところがあればきっとなんとかなっちゃうよ」

ペラペラと頭の中でずっと考えていた文章を読み上げた

「…Aは」

「なあに？」

「…俺と離れて、平気なん…？」

平気なわけがない

いつもどれだけ拓実という存在に救われてるか

拓実を失うのがどれだけ怖いか

でも、この私の感情で拓実の夢を壊したくない

「…えへへ」

『大丈夫、平気だよ』

そう言葉にするはずだったのに

出来たのは精一杯の苦笑いだけ

なんで肝心な時に言葉にできないの

涙が出そうになって、でもここでは泣きたくなくて

自分の手をぎゅっと握って、ただ耐えていた

「…Aは、本当に我慢しいやな」

そう言いながら拓実は私のことを抱きしめた

もう、優しくしないでほしいのに

私から切り出したのに

それでも、いつもの拓実の温かさにホッとしている自分がいて

「…俺、頑張るな」

「…うん」

「絶対、デビューするから」

「…絶対だからね」

ああ、今だけはまだ拓実を独り占めさせて

そう思いながら拓実の背中にそっと手を回した