Astilbe Ⅱ (ページ16)

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#3 ページ16

「名字ちゃん！」

そう思っていた時、はっきりと私を呼ぶ声が聞こえた

その声につられて振り向くと、笑顔で手を振りながらこちらに走ってくる先輩がいた

「見にきてくれたん？ありがと！」

「あ、いえ…」

なんで呼び止められてるかも、お礼を言われているのかもわからない

「さっき名字ちゃんやと思って手振ったんやけど、気付かんかった？」

…私に、だったんだ

そう聞いて嬉しいと思ってしまう自分がいたけど、周りからの視線に気がついて我に返った

「気付かなかった、です」

そう、嘘をついた

「そっかあ〜じゃあ次はもっと大きく振るわ！」

　

なんで

その気持ちでいっぱいだった

「純喜ー！何してんのー！」

「やば、呼ばれてるわ…ほなまたね！」

そう言って、純喜先輩は仲間のところに戻っていった

純喜先輩は誰にでも優しいんだろう、きっと誰にでもああ言うんだろう

きっと昨日たまたま関わったから声を掛けてくれただけ

分かってるのに、どうして苦しいの？

私にだけじゃないって頭では分かってるのに、どうして心はそれを認められないの？

好きになったって叶いもしない恋なのに、どうして諦められないの？

どうして、心からいなくなってくれないの