押せば成る【影山飛雄】【３】

・ ページ12

.



そこからしばらくの間の烏野の安定感は凄まじかったが、月島がウシワカのスパイクにより指を負傷したことで体育館内の空気は一変する。



「…あっ、やっちゃん！？」

「私行ってきます！！」



月島のお兄さんが走り出したのと同時にやっちゃんも勢いよく応援先を飛び出す。

つい反動で私の足も動きそうになったが、ふとコート内の選手たちに目をやると私はなんだかここにいなくてはならない気がして、自然と止まった。



「…七海さんはこっちで大丈夫なの？」

「え、あっはい大丈夫です！月島には2人もマネージャーついてるんでもう十分贅沢だと思います」

「それもそーだねぇ！ほんじゃアタシらと一緒に応援すっか！！」



気を遣って言ってくれたのだろう、心配そうにこちらを見る嶋田マートの店長さんに、にこっと笑いながら律儀に返す。

すると隣にいた田中のお姉さんにガッと肩を組まれた。



「(…烏野は、温かいよなあ。チームも、応援も)」





☆☆☆





試合終盤。

いや、終盤なのかはもはやわからない。5セット目のデュースに入ったけれど、このまま順調に終わる気はしないし、逆に突然終わるような気もする。


ふと、耳を澄ませて目を閉じる。




この3年間、たくさんの経験をした。

烏野高校に入学して、よくわからないままバレー部に入部して、あっという間に過ぎた3年間。

気づけば高校生活のほとんどの思い出はバレー部が占めていた。



「大丈夫」

「…うん、大丈夫だよ。Aちゃん」



両手を握り締めながら落ち着いた声で呟けば、それを聞いていた田中のお姉さんに背中をさすられる。

烏野は強くなったんだから、大丈夫。


.

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す