8. " 絶望 " ページ8
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そして、いよいよ試合が始まろうとしとった時。
事件は起きた。
「そういえば、西川さんなんで来たんだろうね。俺たちが誘う前からもともとくる予定っぽかったじゃん」
2階のギャラリー席の最前列を取り、何やらゴソゴソと大きな鞄を漁っとる西川さんを見てぽつりと呟いたのは角名。
確かに何が目的なんやろ。見たところ1人でおるし、友達の付き添いなんかでもなさそうや。
もしかしてバレー好きなんかな?え、そんなんめちゃくちゃ趣味合うやん。やっぱり俺とあの子、運命なんちゃうやろか?
ぽやーんとふわふわ夢心地な俺を現実に引き戻すかのように、聞きたくもない言葉が耳に入る。
「……誰かのファン、とか?」
.
.
「……は?そ、そんなわけないやん…」
とは言いつつ、一気に冷や汗が垂れてくる。
いやだって、西川さんやで?誰にでも隔てなく優しいあの子が、特別な誰かのファンになることなんか絶対ないやろ。
頭の中では言い聞かせても、角名のまっすぐな視線に思わず「なんやねん…」と後ずさる。
「……あっ!?」
「え、な、なに」
「ちょっ、治!!後ろ向いてて!!」
「はあ?なんやねん急に」
突然角名が観客席を見て声を上げた。
その流れでなぜか俺の体をくるりと反転させ、まるで西川さんを見せへんように後ろを向かせてきよる。
慌てる角名が妙に新鮮で、つい眉を潜めた。
「おいやめろや、試合始まんねんぞ」
「なら絶対上は見上げずにコートに入って。で、せめて試合終わるまでは見上げるな」
「あほ!天使が応援きとんのに見上げん奴がどこにおんねん」
「だからその天使を見たらダメだって言って……っておい!!」
あまりにも制されるもんやからムッときてしまい、
角名の抑える手を振り切って後ろを振り向く。
なんやねん、突然そんな……
「………え?」
視界が一瞬だけ、モノクロになった。
俺の目に映ったのは、相変わらず撫で回したいくらい可愛い笑顔の西川さん。
と、その手に持たれた、うちわ。
黒いベースに、キラキラしたよくわからん飾りがごちゃごちゃしとって、派手に輝くそれは観客席の中でもやけに目立つ。
そして俺にトドメを刺したのは、そのうちわに丸っこい形で描かれた文字やった。
どう目を凝らしても、間違いは、ない。
" あ "
" つ "
" む "
「……………嘘やろ?」
ひゅっと、体の力が一気に抜けていくのがわかった。
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作者名:みずかわ | 作成日時:2021年1月10日 14時