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陽斗は、教室にいた。
先ほどまで暗殺をしていたのか、隣で帰り支度をしている岡野さんと「残念だったな」などと話している。開きっぱなしの教室のドアの前に立っている私には気づかない。
「にしても、磯貝来なかったな」
「ねー…どうしたんだろ」
「あいつに限って忘れてたなんてことはないと思うんだけどな…」
――私のせいだ。
そのことは一瞬で分かった。
私が悠馬くんの都合も考えずに長々と話をしてしまったから。
「時間もらっても大丈夫？」なんてそんな言葉すらもかけないで、私は悠馬くんに勇気を貰って。
悠馬くんはそんな私のことを、どう思いながら話を聞いていたんだろう。
どう思ってアドバイスをくれたんだろう。
今の状況と相まって、目じりに涙がたまる。
「あれ、Aちゃん？」
「お、かの、さん」
岡野さんと目が合う。
「どうしたの？涙目だけど大丈夫？」
ぎくりと一瞬身構えるが、平静を装って教室に入る。
「ちょっと眠くなっただけ。何でもないから大丈夫だよ。
暗殺、お疲れ様」
「ありがと、また明日ね」
そう言って岡野さんは教室を後にした。
…教室には、私と陽斗の二人だけ。
気まずい空気の中で、私は口に出す言葉を考える。
どう切り出して、どう謝って、どう仲直りすればいいのだろう。
ぐるぐると脳が回転する。
考えれば考えるほど、言うべき言葉が迷子になってゆく。
私が言いたいことは何？
私が伝えたいことは何？
陽斗が私に言ってほしい言葉は何？
悠馬くんはなんて言ってくれたっけ？
ああ、どうすれば。
「―――ひ、陽斗っ」
気づいたときには、私の口からは彼の名が零れ出ていた。
(一度零れた言葉は、なかったことには出来ないから)
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作者名：ここなっつ | 作者ホームページ：
作成日時：2017年1月12日 0時
