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「……なんだ？」
謝るときの言葉だって、表情だって、昨日の言い訳だって、何一つ思い浮かばなかった。
それでも、今日、陽斗と話がしたかった。
これ以上先延ばしにして――逃げてしまうと、きっと私は二度と自分から陽斗に話しかけられなくなってしまう。そんな気がした。
何でもいい。どんなにつっかえても、泣きながらでもいい。
強がらなくていい。
笑顔じゃなくてもいい。
気持ちが伝われば、いい。
正直に、素直な言葉で。
「――陽斗、一緒に帰ろう」
下を向いてはいけない。
しっかりと前を――陽斗の目を見て、伝われ、と願う。
これからも今まで通り、一緒に帰ろう。
「………」
陽斗の顔がくしゃりと歪む。
その悲壮感溢れる表情に傾きかけた夕陽が差し込み、彼はまるで芸術作品の様にとてつもなく美しく見えた。
ああ、私は彼の生活の中で「居なくても支障がない存在」なのだ。
現に彼のその表情が何よりも明確な証拠だ。
「……ごめん、変なこと言って」
それだけ言ってカバンをとると、ふんわりと私を包むほど良い温かさ。
胸元で結ばれた大きい手と、聞きなれた優しい声。
「A……ごめんな」
そう思うなら止めないでほしかった。
こんなことしないで、そのまま帰してほしかった。
こんなことされたら、諦めかけた気持ちにまた火が点いてしまうから。
その火はたちまち燃えあがって、きっと消火ができないから。
それでも私は抵抗ができない。
「離してよ」そう言うことができない。
目の前で緩く結ばれた彼の手を払いのけることができない。
――あなたを好きになった気持ちが、それを許さないから。
(心の中で、静かに、大きく燃える)
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作者名：ここなっつ | 作者ホームページ：
作成日時：2017年1月12日 0時
