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「なんでもない…っ」
「じゃあなんで泣いてんだよ？
理由があんだろ？」
陽斗が原因なんだ。
そんなことは言える訳もなく、その代わりに温かい滴がとめどなく溢れ出す。
もう泣いていることは知られているのに、泣き顔を見られたくなくて俯く。
ポタ、ポタリ、と零れ落ちた滴はスカートに染みを作っていく。
幾つかはだらしなくぶら下がった私の腕にもしたたり落ち、ツゥっと手の甲を滑り落ちていく。
「…なぁ、俺でよかったら話、いくらでも聞くから」
「いい…、もう家着いたから…っ、じゃあね」
このとき陽斗が何を思って、どんな顔をしていたのかは私は知らない。
ただ時分のことで頭がいっぱいで、周りのことなど考えていなかった、というのが正しい。
少女漫画の恋はいつも楽しくて、前向きなものばかりだ。
最終的にはハッピーエンドで、幸せが訪れると保証された世界。
「うぅ…っ」
溢れ出しそうになる声を抑えるために、口を手で覆う。
溢れ出して止まらない私の心は口元に当てた手を乗り越え、下へ下へと堕ちていく。
ただの嫉妬。
分かっているはずなのに。
痛いほどに。
嫉妬は、恋人じゃないとしてはいけないものなのだろうか。
幼馴染、というそれだけの関係。
でも、恋をしているのなら…？
片想いには、嫉妬する権利なんてないのだろうか？
嫌だ。
他の女の子と遊ぶなんて、しないでよ。
私のことを見て欲しいの。
そんなことを思ってはいけないのだろうか。
今日は初めて「また明日」、と陽斗に言わなかった。
「送ってくれてありがとう」それすらも言えなかった。
「……じゃあ、な」
「また明日」と返してくれなかった君は、どんな思いでいますか。
(気が付けば止まらない涙は、苦しく歪む貴方の顔を隠した)
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作者名：ここなっつ | 作者ホームページ：
作成日時：2017年1月12日 0時
