>>12. ページ13
「……Aは」
あなたの声も震えてる。
そう感じるのは気のせいですか？
「………っ、」
フゥッ、と息を吐く音。
ドクドクと大きく鳴る心臓は、きっとあなたにも聞こえてる。
「っAは、俺のことが好きなのか？」
なにそれ。何その言葉。
決して自惚れてた訳ではない。
陽斗が何を言うかなんて、私には知る由もない。
そんなことは陽斗しか知らない。
――でも、この状況で少しも期待しない事なんてあるだろうか。
好きな人に抱きしめられて、「離して」って言っても「離さない」って言われて、意味ありげに私の名前を呼ばれたら……
いったい誰が、期待しないというのだろう。
『俺のことが好きなのか？』
好きな人にそんなことを言われたら、誰だってがっかりする。
「……ば、かぁっ…」
答えられるわけがない。
『好き』だから。
どうして、そんなこと聞くの？
私をからかって遊んでいるの？
『うん、好きだよ』なんて、答えられない。
今までの思い出とか関係が全部、ガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまうような気がして。
それがとてつもなく恐ろしい事のように思える。
気が弱いくせに変にプライドが高いから、私はいつもそうやって"一歩"が踏み出せない。
小さい頃から、学校でも、家でも。
家では親――主に父親の言いなりだし、友達だって陽斗がいなかったらできなかった。
望むけれど、実現しようとしないのだ。
――それは、恋愛に於いても一緒で。
どんなに望んでも叶えようとする行動力がないから、どこまでも臆病だから、
「…………」
あふれる涙を拭いもせずに、私は黙って逃げるのだ。
(後ろを振り返れば、想ってくれる人がいるのに)
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作者名：ここなっつ | 作者ホームページ：
作成日時：2017年1月12日 0時
