Storm's a moment vol.3 (ページ19)

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光芒ページ19

side 二宮

我々から少し離れたテーブル席に、歌詞の素となるであろう単語が書き散らかされた紙の山

真っさらな譜面と、オタマジャクシが泳ぐ旭灯サン直筆のメロディ

何時も持ち歩いているノートには、きっと旭灯サンの頭の中で考えられている事が、文字となってジッと陽の目を見る時を待っているんでしょう。

レポートだ、試験だ卒論だって眠い目を擦りながら、仕事の合間に机に向かっていた翔ちゃんを思い出させる紙の海

側に置かれたパイプ椅子には、手付かずのお弁当。

一度自分の世界に入り込んでしまった旭灯サンを、現実世界に引き戻すのは、翔ちゃんにでさえ困難で

極限まで集中してペンを走らせる旭灯サンを止める術を、ワタシは持っていない。

潤「弁当……気付いてないみたいだな…」

和「と言うよりも、我々の存在すら忘れ去ってるでしょうね」

雅「……このままじゃ…倒れちゃうよ、翔ちゃん…」

翔「…オレにも無理なんだよ。先週までは、何とかオレの声も届いてたんだけど、ここ3日は…何言っても聞こえてない」

グッと唇を噛んでいる翔ちゃん

寝食を忘れる旭灯サンを、ギリギリの所でコントロールしてくれていたけど

遂に翔ちゃんの声も聞こえないくらい深いところにまで沈んでしまった様ですね…。

和「………どうしたものか…」

クロさんも、顔を顰めて考え込んでいる

打開策が何一つ思い浮かばない、無限ループに片足つこっこみそうになった時

一言も発さなかった、大野さんがゆっくり旭灯サンに近付いて行く。

みんなの視線を縛り付けたまま、少し丸まった背中が旭灯サンの傍に立った。

智「ー……あーさーひーぃ、ちょびっときゅーけーなー」

清々しいくらい気の抜けた大野さんの声

細い指が、旭灯サンの肩にそっと触れて

そこから上に昇って視界を覆う。

智「きゅーけーきゅーけー、な？旭灯」

歌うように旭灯サンに話しかける大野さんに応える様に

紙の上を走り回っていた手が、ピタッと止まった。

『……さと…』

智「顔があっちいぞ。おーばーわーくだ、その内耳からケムリ出るぞ」

『……オーバー…ワーク………』

智「作ってるやつの、世界に引きずり込まれたんだ。オイラもたまにある」

そっと旭灯サンを紙の海から遠ざけて、我々の輪の中に連れてくる大野さん

楽曲とアート

分野は違えど、モノを作る者同士分かり合えるナニカがあるんでしょうな。

ホント、良い仕事しますよこのオジサン。