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｢A、一つだけ聞いてくれへん？｣
大好きな人の体温、大好きな人の声、大好きな人の手。
｢いいよ、何？｣
｢俺が囮になる。せやから、Aだけでも逃げて。そしたら多分俺は捕まると思うから、Aは看守のフリしとって｣
｢………何で｣
｢大好きな人の願い、聞けへんの？｣
作戦を話す、と伝えられて連れて来られたのは私の知らない場所。
ソファの上ではいつもセンラが女装をして看守としていた時の仲の良い三人が眠っていた。
近くには酒が置かれており、その様子を見る限り起きることは無いだろう。
センラに必死になった目を向けられて答えられないはずが無かった。
｢…分かった。けど、捕まったらどうするの｣
｢それはちゃんと作戦あるから大丈夫。ほら、行くで｣
優しげに笑うセンラに黙って着いて行く。
差し伸べられた大きな手を取って二人で走る。場所によってはセキュリティが厳しい所もあるため、彼の力が無ければ抜け出せる筈がなかった。
二人で走って、駆けて、息を切らして。
そんな中、一つに警告音が鳴り響く。
｢囚人の脱獄を確認！全員直ちに配置に付け！｣
聞きなれた声だった。
センラと仲の良い先程まで眠っていた茶色の髪をした男の声。
ここの看守を統一する人間。
｢ッセンラ！！｣
｢早う！走れ！！｣
どうしよう、とセンラに助けを求めると更に力強く私の手を引っ張ってくれる。
早く、こうなりたかった。
早く、彼とこうしていたかった。
けれど、現実そううまくも行かなくて。
｢A！先に走れ！こっから先は一人で行け！｣
｢で、でも！｣
｢ええから！！……A、ずっとずっと大好きやで。愛してる。だから、な？｣
泣きそうになるのを必死に堪えて唇を噛みしめる。
血が出そうなまでにキツく、キツく。
センラの笑顔に私はめっぽう弱い。
だから一人で先を見て走り出した。
ごめん、ごめん。
そう言ってただ走った。
ここで私が走らなければ、彼の努力が全て水の泡になってしまう。
鉛のように重たい足を前へ前へと出して振り返ることなく走る。
でも、本当は分かっていた。
きっとセンラが囮になることなんて。
前に助けてくれた彼が似たようなことをしていたから。分かっていた。
私は小利口な、紗痲な女だから。
だから、分かっていたのに。
彼の笑顔を見たら反対できない。
───パァンッ！
後ろの方で銃声が聞こえた。
私は静かに目を伏せてまた唇を噛みしめた。
口の端から血が滲んだ。
私の恋は叶いやしない。
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しろもん* - すごく良い作品ばかりで、ひたすら感動していました。私は、最後のお話が好みです。でも、本当にどの作品も素晴らしかったです。 (2020年1月21日 23時) (
レス) id: 36bbb34c6c (このIDを非表示/違反報告)
アヤノ(プロフ) - 涙がボロボロで止まらなかったです。描写もどのお話も素晴らしく、Bバージョンもとても楽しみです。 (2020年1月19日 0時) (レス) id: b204067585 (このIDを非表示/違反報告)
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