2周目 願13 ページ34
「俺がどうしたって?」
チラリと見えた零の表情は、底冷えする仄暗い瞳に僅かばかりの暖かさを混ぜ込んだ様な、酷い色をしていた。
「いえ、なんでも…」
風見さんが肩をすくめ、そう答えた。
ああ、このまま誤魔化されてくれて去ってはくれないだろうか?
どんな言葉を投げられても大丈夫なんて思っておきながら、私はどんな言葉も聞きたくない。全然大丈夫なんかじゃなかった。
どんな罵倒でも受け入れるつもりだ。私に逃げ出す権利はない。覚悟だって出来ている。
でも、痛くない訳じゃない。
「なんでもないって事はない、だ…ろ。」
自分の名前が飛び交っていたのだから、誤魔化されてはくれないか…
それに、気付かれた。
「おまえ…」
地を這う様な声。あの廃ビルで聞いた様な低い声が、私を睨み付けている。
顔があげられない。手が……いや、全身が震えている。それなのに、まるで凍ってしまったかの様にどこも動かせない。
「ふ、降谷さん!」
焦った声が、まるでフィルター越しに喋っている様に聞こえる。耳の奥で不快な音が絶えず流れている。
「大丈夫、じゃないな。何徹目だ?」
「……へ?」
なんだそれは、なんなんだ。
なんでそんな……
ああ、知っていたさ。零が優しい事はわかっていた。同時に、仲間意識が強くて義理堅いから、不義にはきっちり制裁を与えるものだと思っていた。
いや、実際そういう人なんだ。
正義に熱い人だ。
彼にとって、私が行った事は裏切りに等しいだろう。なのに、心配をするのか。
「……風見、白木を借りるぞ。」
「え、は、はい。」
零は私の腕を掴み、引っ張り上げた。
私はその力に従い脚に力を入れる。
引かれる腕が未だに震えている様な気がして、振り払いたくなったけれど、それは出来ない。
握られた所が酷く痛んだ様な気がした。
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作者名:89* | 作成日時:2018年9月24日 17時