2周目 願8 ページ29
ボクシングの構えを取る零に、私は正直逃げ出したくなった。
私は零に勝った事がない。
人生2周目だっていうのに、超えられた試しがない。
でも今超えなければ、いつかじゃあもう遅い。
超えれなくとも、互角に渡り合わなければならない。
零は此処を通り抜けさえすればいいのに対して、私は音をたてずに彼を倒さなければいけない。
神経を限界まで尖らせる。
たかが知れているし、男女差だってあるがそんな事を言っていては諸伏を助けられない。
自決を止められない。
短く鋭い息が聞こえた瞬間、私は右足を滑らせ体制を低くした。
零の右ストレートが空を切る音が、左耳の鼓膜をふるわせるとほぼ同時に、そのまま地面を擦るようにして、足払いを仕掛ける。
しかし零は体制を崩すどころか、ビクともしていなかった。私の足の方が悲鳴をあげていた。
ここまで差があるなんて、思っても見なかった。
過信していた。
やらなきゃいけないけど、これは無理だ。
闘って勝てる相手じゃない。
なら、
「お願いだから、話を聞いて零！」
「仲間を見捨てる様な奴に、耳を貸すと思うか？」
冷え冷えとした目。
もう完全に私は敵とみなされている。
無理だ。
「最後にチャンスをやる。そこをどけ！」
無理だ。
向かう事も、引く事も出来ない。
「出来ない。」
「そうか。」
冷え切った目を視界に映した瞬間、私の身体は吹っ飛んでいた。
ガッシャァンと大きな音を立てて、私は錆びかけた階段にぶつかった。
薄れる意識の中で、乾いた銃声だけが頭の奥で響いていた。
無理だった。
また、出来なかった。
また、失ってしまった。
今度は、信頼さえも失ってしまった。
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作者名：89* | 作成日時：2018年9月24日 17時
