20人目 ページ20
瑠璃色の薔薇が描かれた黒い封筒。
闇オークションへの招待状を手に入れたのは、おそらく必然だった。
「突撃準備は良いか？」
零の鋭い声に頷いて、私は銃を握りしめた。
これから始まるのはオークション会場の制圧。
証拠品の不正取引。
こんな物が長年放置されてきたなんて思いたくはない。しかし、事実目の前で行われようとしているのだ。
私達の今回の任務は、このオークション関係者を無力化して捕縛する事。
「突撃！」
短い合図で会場に入り、銃を向ける。抵抗すれば撃つと脅しつければ、幾らか被害は押さえられるかも知れないなんて思っていた私が馬鹿だと思い知ったのは、すぐだった。
鳴り響く銃声は味方の放った物ではなかった。
幸いにも相手は素人。数人の実力者はいたが、公安の敵ではない。
私は慢心していた。
数十分後、公安以外の人間は地に伏していた。
被弾してはいるものの全員命に別状はなく、かすり傷で意識を失って仕舞っている者が多かった。そういった輩を拘束していく。
ふと、私の身体は駆けだしていた。
銃を構える人と、銃口を向けられた零の間に身体を滑り込ませる。
意味などないかも知れないが、来るだろう銃弾が貫通しないように腹に力を入れた。
瞬間、焼けるような痛みに身体が落ちる。
「A！！くそっ……」
零の声の後に続く一発の銃声と聞き覚えのない男の叫び。
それが聞こえたかと思えば私の身体は、温もりに包まれていた。
好きな人の、零の腕の中にいられるなんて…
私にはもったいない気もするが、悪い気はしなかった。
気がかりがあるとすれば……
「零、ごめんね。」
「A？……おいA、しっかりしろ！！約束、したじゃないか…」
約束を守れなかった。私は零にもう、何もしてあげられない。
身体から何かが流れ出ていくのがわかる。
血液だけじゃなくて、もっと他の何か。
暫くすれば、じきに体も動かなくなる。最期に零の為に何ができる。
私に何が…
「私の、事を……使って。」
「どういう……？」
「私は組織、の裏切りものとして……ここで、零に…」
「そんな事できるわけないだろ！？」
優しい彼は私を売る様な真似をする事はないだろう。
けどそれでは、私は最期まで何も出来ないままな気がした。
少しでも零の役に立ちたかった。
「やるの。そして、この国を…」
欲を言うなら一緒に…
この国を守って……
その言葉は届かぬまま私は命を落とした。
零は泣いていた。
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作者名：89* | 作成日時：2018年9月24日 17時
