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まさか彼はずっとここにいたのだろうか?
いや、一度戻った筈だ。
零は今途轍もなく忙しい。
私の思考を読んだのか、零がタイミングよく言葉を発した。
「仕事に戻ったんだけど、まだ寝てろって風見がな……」
なるほど…
零の目の下に薄っすら浮かぶ隈を見て、風見さんは彼があまり休めていないのに気がついたのだろう。
風見さんには気を遣わせてばかりだ。なんだか申し訳ないな…
「私はもういいから、ここ使って。」
どうせ横になった所で眠れそうにない。
「あれから20分しか経ってないだろ。」
零の言葉には心配が滲んでいて、それだけでまだ頑張れる。
でも、少しだけ打ち明けたくなった。
弱い所を見せるのは普段だったら躊躇して、必死に隠し通しただろう。
正直な所、もう限界など過ぎ去っていたのかも知れない。
「夢を、見るの。皆が私を置いていく夢。」
ハッと息を飲む音がした。
「大きな爆発音と発砲音がして、最後には屍が私を嘲笑うかのようにごとりと落ちる。」
無力な私が恨めしくて、救えなかったのが悔しくて…
伊達も零も居なくなってしまうような気がして…
恐ろしいと同時に情けなかった。
「A…」
「ごめん。」
私は友人を救えなかった。
零が私をどんな顔で見ているのか知りたくなくて、顔を背けたまま私は立ち上がった。
心はいつまでも座り込んだまま、身体だけは立ち上がる。
不意に、なんとも言い難い優しい温もりが私を包んだ。
「悪い。」
そんな言葉をかけられる筋合いはないと言うのに…
そんな価値は私にはないのに…
「どうして、零が…」
何故彼が謝るのだろう?
「俺は居なくならない。」
そう続けられた言葉に、安堵した。
これ以上居なくなるのは嫌だ。その思いを彼は汲み取って、私の心を掬い上げた。
私も彼みたいに誰かをすくいたい。
「だからAも、居なくならないでくれ。」
小さく返した肯定の言葉が破られる事はそう遠くないのかもしれない。
この時の私は本気で、この暖かい約束を守るつもりだった。いや、その時が来るまでずっと…
零の命が脅かされるまでは…
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作者名:89* | 作成日時:2018年9月24日 17時