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焦燥感がとまらない ページ4

ふわり、と一瞬何かの匂いがした。何の匂いって、例えられないけど何かの…


「っ、ひえっ」


「ふふ、咲。似合ってるよ」


「えう、あ、…」


後ろから柔らかな身体が包み込む。


なんだこの異様な安心感は。母の腕の中にも似てるし、恋人に抱き締められている感覚(彼氏いたことないけど)にも似てるし、不審者に抱き着かれた感覚にも似ている。

とにかくバラバラな感覚を覚えて私は一瞬パニックに陥りそうになったのだがそこは堪えた。

何せ相手がこの上無いくらいの笑顔。私の良心はリアルなことを言ってはダメだと叫んでいる。

しかし、まあ、色々聞かなきゃいけないことはある。


「えっと、何から聞けば…取り敢えず、あの、服ありがとうございます。あっ、私久遠咲って言いますっ、それで、あのっ」


何を話せばいいのか。何を聞けばいいのか。あまりに非現実だから、何が正しいのか判断がつかない。


すると女性は名残惜しそうに身体を離して、可愛いとも美しいとも取れる笑顔を浮かべて口を開いた。


「私の名前はラハト。君は人間だから、これを見慣れていないはずだね。私は翼人族だ」


「よくじん…?」


「君の言葉で説明すれば…翼を持つ人。けど生憎私たちは人ではなくてね。一族の好みが人だからそう呼ばれてる」


マジ?そうは聞きたくとも言葉さえ出てこない。一体なにが?ここは現実なのか?目の前で美しい白い翼を広げる人でないと称するもの。


あり得ない。まず現実なら確実にこんなことは起こらない。当たり前だ、科学的根拠もないのだから。


だけど意識ははっきりしている。絹糸を紡いだようなきめ細やかさが目に見える白、鳥のように僅かに揺れ動き、何故かラハトさんに物凄く合っている。当然かのようにそこにある。到底、偽物とは思えなかった。


明晰夢?と思っても、こんなに壮大な夢を見れる程経験が豊富だったり想像力が豊かなわけではない。


「咲?」


「…えっ、あ…いえっ、あの、…なんで私の、」


「待って」


長く白い、ピアニストを連想させる指が私のかさかさしている唇に触れた。唇のほんのわずかに浮き出た皮を押しつぶす感覚は、夢なんかよりもずっと、ずっとリアルだ。


「その話し方は癪に障る。やめてくれないか」


「えっ。話し方って、えっと、敬語のことですか…?」


「…敬語というのか。そうだ」


敬語知らないのラハトさん…と一瞬天然っ子な想像をしたが、すぐにその想像もある事態に気付いて吹き飛ぶ。


.

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作者名:APca | 作成日時:2017年5月20日 1時

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