不思議の塊 ページ3
いや誰だし。いや誰だし(二回目)。というか何で私の名前を知っているのだろう、おかしくないかっていうか翼生えてる人間じゃないやばい警察あ警察いないわもう駄目だ終わった
という私の焦りが一瞬脳裏をよぎったが、¨私以外に生き物がいる¨という事実には勝てなかった。
「あ、あの、私、迷っちゃって、此処が何処なのか、」
何を言えば一番ベストなのか分からなくて、とにかく現状を説明しようとしたら頬に細く、長く白い指が触れた。その冷たさに驚いた。雪の中ですっかり冷え切っていたつもりだったのに、この女性の手はもっと冷たい。
「分かっている。こんなに冷え切って、外は危険だ。私のところへ来るといい」
「え、…」
いいんですか、という言葉を言う前に身体が浮いた。浮遊感に驚いて慌てて女性の身体に掴まる。リュックサックが落ちたのを見てさらに慌てた。あの中には携帯が入っている。
「あ、あの、」
「掴まっているんだ、落とすつもりはないけれど君が離れたらいけない」
有無を言わさぬその人間らしさを感じない瞳に、言う言葉は見つからなかった。白い雪の中に埋もれたリュックサックがどんどん小さくなっていく。柔らかい赤い髪の毛が身体に掛かっている。長い髪の毛だ。
多分、電話くらいはあるかもしれない。そこで連絡を取ればいい。
あまりにも非現実的なこの現象から目を逸らすように、私は彼女の胸元に小さく擦り寄った。
「あの、すみません、…その、助けてもらっちゃって」
「咲が謝る必要はないよ。着るといい、その服はもう使えない。向こうに部屋がある」
渡された服は普通の白いワンピースだった。あんまり日常的にワンピースを着たりしないけど何となく安心。指示された部屋に入り着替える。
ここは、衣装室か何かだろうか。大量の服がぎっしりと詰まっている。そのバリエーションと来たら、百はありそうと言っても過言じゃない。
匿わせてもらったこの家は一人が住むにはかなり広い。屋敷、とまではいかないかもしれないが一般人が持てるような家でないことは確かだ。
いや…あの女性はまず人ではないのだろう。翼が生えている人間を果たして人と言えるのか。
ふわふわと揺れるワンピース。新品同様だったので、着るのが憚られた。
制服を持って部屋を出ると、誰もいなかった。きょろきょろと見回してみてもあの女性の姿は見えない。
「…どうしよう」
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作者名：APca | 作成日時：2017年5月20日 1時
