電車から降りるとそこは雪国であった。 ページ2
「寒い…」
私の名前は咲。
私は先程まで電車で席に座って、ゆったりとらしくもなく参考書を読んでいた女子高生だ。今日は授業が早く終わって、寄り道もせずルンルン気分で帰ろうとしていたときだった。
電車のアナウンスが鳴らなかったのを不思議に思いながら目的の駅で降りる。私の最寄り駅はこの線の終点なので間違えるはずはない。
間違えるはずはないのだが、私は雪国に来ていた。
私は今、雪国にいる。
降りたときに足に感じた冷たい雪に、後ろに飛び退こうとする程に驚いた。季節はすでに立春を通り越しているはずなのに、此処は雪がある。
北海道住みでもないのに雪があるのはおかしい。とにかくここが私の最寄り駅ではないことを知って、私は慌てて戻ろうとした。すると、電車が消えていた。
ちなみに線路も白い雪に埋め尽くされて消えていた。
肩の力が抜けた。あまりにものこの非現実さに、これは夢なんだと自分に言い聞かせていた。肩からずり落ちたリュックサックが雪の上に落ちる音は、重い割には随分と柔らかい。
慌ててリュックサックを拾い上げ、辺りを見渡す。
雪、雪、雪。一面白銀の世界だ。一体何がどうなっているのだろうか。自分は、どうしてこんなところにいるのだろうか。
そして私は戻れない。電車が無ければ戻ることはできない。それを悟った瞬間、雪が降れた足の部分から頭のてっぺんまで一気に冷えた。
酷い恐怖と混乱を覚えながらスマートフォンを取り出す。圏外。分かっていつつも母親や友達、果ては警察にも電話を掛けたが、圏外故に誰の連絡先にもつながらない。
絶望した。しかしそこで私は諦めない。電車が来た方向に戻ればいい。線路は無くても方向は分かるのだ。電車の進行方向の逆を行けばいい。
こんなところで野垂れ死ぬなんていうのは一生の恥な気もしたし、それにこんなに寂しい死に方があるかと自分を奮い立たせて足を進めた。重い雪が足を引っ張って進みにくい道ではあった。
やがて夜になり、ついに私はその場にへたり込んだ。もう三時間近くは歩いているのに一向に何も見えない。辺りは白銀で、民家も見えないし、駅もない。森も、動物の声も、聞こえないのだ。
そのときだった。翼が空を切る音が聞こえて、縋るような想いで空を見上げると、それは瞬きの間に私の目の前にいた。
「遅くなってすまなかった。迎えに来たよ、咲」
そう言って、目の前の赤髪の美女は微笑んだ。
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作者名：APca | 作成日時：2017年5月20日 1時
