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「っ、これ、」
顔を背けたまま、手だけを私の方へと伸ばして差し出されたもの。
「洗濯してまだ使ってないやつだから、多分、大丈夫、」
広げるとそれはジャージだった。恐らくは那須くんの、ジャージ。
…わざわざ持ってきてくれた？私のために？
「え、あ…、ありがと、」
受け取る間も那須くんは私の方を見ないようにしていた。見ないようにしてくれているんだと分かり、そのジャージに袖を通す。仄かに洗剤の優しい匂いがした。ファスナーを首元まで上げると、その音で着終えたと分かったのか、ややあって彼が振り向く。
「……」
眉間に寄った皺は、嫌悪ではなく、もしかしたらただ困惑のそれなのかもしれない。
私を見て、困った顔をして。
それからすぐに背を向けるとなぜか無言で教室の中を歩き回り出す。よく分からないけど多分、だいぶ困らせていた。
ふと立ち止まる。かと思いきや、黙ってまた教室の外へ出て行った。
さすがに帰ったのかなと思っていたけれど、数分後、またここに戻ってきた那須くんの手に今度は私の鞄があった。
びっくりしてしまう。職員室から取ってきてくれたらしい。
「他に何か持ってきますか…？」
どうして那須くんがそんなことをしてくれるんだろうと、びっくりして声が出なくてただ首を振った。
有難かった。生徒用のジャージ姿である理由を職員室で聞かれたりしたら面倒だし、今日はもう誰にも会わずに帰りたいと思っていた。
「あと、タクシー呼んでるので帰れそうだったら…。帰れますか？」
私の様子を伺いながら不安げに尋ねるその声が優しくて、ものすごく優しくて泣きそうになった。
日頃、敵だなんて馬鹿なこと思ったりしてごめんなさい。こんな心根の優しい生徒相手に私は本当にしょうもない大人だ。
泣きそうになっただけのつもりが、けれど気がつけば本当に涙が出ていた。
「っえ！？ちょ、え、なんで、」
ぼろぼろと溢れて止まらなくなったそれに那須くんが慌てる。だめだ。我慢しないとと思うほどに制御が効かない。
「ぅう、ご、ごめ…、」
自分で自分の涙を止められない私はパニックになってるし、それを見て那須くんはもっとパニックになっている。
制服のポケットから慌てて取り出したハンカチを、これ以上ないくらいの困り顔で差し出された。どこまでも自分自身のことをみっともなく情けないと思うけれど、受け取る。ハンカチからはジャージと同じ優しい匂いがした。
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よぴ(プロフ) - パスワード教えていただきたいです（ ; ; ） (2022年1月17日 19時) (
レス) id: 5c59f9ee59 (このIDを非表示/違反報告)
いち - パスワード教えてください⁉️ (2021年9月28日 13時) (レス) id: 358f9d64ec (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - こむぎさんの作品いつも楽しく読ませていただいています。この作品を最初から読みたいのですがパスワードを教えていただくことはできますか？ (2021年5月5日 2時) (レス) id: 3b72a96203 (このIDを非表示/違反報告)
りの(プロフ) - どの作品も大好きです！いつもキュンキュンしながら読ませて頂いています。これからも楽しみにしています。 (2020年5月3日 21時) (レス) id: e6fd1d12b5 (このIDを非表示/違反報告)
陽依(プロフ) - 切なくて切なくて、涙が出てきました。このお話大好きです。これからも楽しみにしています。 (2020年5月3日 19時) (レス) id: 5f72745e3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こむぎ
| 作成日時：2019年7月21日 14時
