baby I love you

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「おい、おかえりはどうした」



いつもならうるさいくらいにきゃあきゃあ言いながらお出迎えしてくれるAが、今日は妙に無言だった。かといって機嫌が悪いとか体調が優れないといった感じもなく、むしろ楽しそうな、嬉しそうな気配すらある。



「え、なになに」



何か言いたくて仕方ないことでもあるみたいに、もったいぶって両手で口を覆いふふふと笑う。上目に見上げてゆっくりとその手を外すと、にぃ、と口角を上げた。そのままその小さな口を開いて見せる。



「……すげぇ！！！」



思わず声を上げた。



「歯が！！歯がない！！！！」



今朝まで下の前歯があったところに、ぽっかり空洞ができていた。しゃがみこみ、頰を手で挟んで口の中をじっくり見る。「抜けたの！？」と聞けば、得意げな顔をしたAがポケットに手を突っ込み、取り出した手の平を開く。小さな小さな、可愛らしい乳歯がそこにあった。



「ぬけた！」



Aにとって、生まれて初めて抜けた乳歯だった。小２にしては遅いのを本人はずっと気にしていたから、よほど嬉しかったのか興奮気味だ。



「ぐらぐらってしてたからね、ずっとさわっててね、でもとれないやーって！それでねゆうたくんかえってこないから、ひとりで今日のぶんのアイス食べてたの！そしたらね、ぽろって！ぬけた！」
「マジか、すげーな！」
「うん！すごい！すごい、ぽろって！」



いつもよりも早口でその興奮を伝えながら後をついてくる。俺が洗面所で手洗いうがいをするその後ろで、ぴょんぴょんと飛び跳ねているから笑ってしまう。



「歯、投げなきゃだ」



そう言うと、目をぱちくりさせて「なげるの？どこに？どうして？」と聞く。



「屋根に向かって高く投げたら抜けたとこから立派な歯が生えてくるんだよ」
「なんで！？すごい！」
「なんでかは知らないけどそういうもんなの。俺の歯がまっすぐきれいに立派に生えてるのも小さい頃から欠かさず屋根に投げてきたおかげだ」
「すごい！！！」



目を輝かせていた。そういえばマンションの場合ってどうするものなんだろう、と考える。ベランダから投げると絶対屋上まで届かないし、下手したら人の家のベランダに落ちることになるし。
あ、屋上に続く非常階段があるな。あそこから投げれば届くかもしれない。



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