baby I love you

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「なんで……」



薬局で小児用の鎮痛剤を買って戻ってくるまで、そう長くはかからなかったつもりだけれど。リビングのソファの上で丸まったAは恨みがましい目をして俺を見た。



「なんで、どっかいっちゃうの…」
「え、ごめ、薬買いに、」
「いないから…びっくりしたじゃん…」



寝心地なら自分の部屋のベッドの方がいいはずだ。ここで俺を待ってたんだろうか。
コップに水を注いで薬と一緒に持っていく。錠剤を掌に落としてやると、眉間に皺をつくって一気に飲み込んだ。
それから部屋に戻るでもなく、俺の膝を枕にして再びソファの上で横になる。



「……こわい、」



腿に顔を埋めて、小さな声でそう零した。
あぁ、そうか。怖いのか。
そうだよな。
これまで経験したことのない種類の痛みが襲ってくるのは、それがいつまで、どんな風に続くのか分からないというのはそりゃ怖いよな。怖くて、心細くて、たった十数分の話とはいえこの子がそんな想いを抱えてこのソファの上で一人俺の帰りを待っていたのかと思うと何だか俺の方が泣きたくなってしまう。
代わってあげられるものならそうしたいけれど、その痛みを想像することすらできやしない。



「どう…、どんな風に痛い…？」
「お腹と腰を……内側から交互に、打たれてる…、鈍器で…」



想像して「ひぇ」と声が出る。情けない。
俺の膝枕を使いながら体をきゅっと小さく丸めて、それっきり動かないAのこと、どうしていいか分からずに両手を宙に浮かせていた。
恐る恐る腰のあたりに手を伸ばし、そっと、最大限優しい手つきでそこをさする。



「……この辺撫でたら、嫌な感じ？」
「ううん…、いい感じ。…ありがと」



言いながら横顔は苦しげに瞼が閉じられていた。
この先何十年も、こんな痛みが毎月やってくるのかと思うと女の人は本当に本当に大変だと思う。



あぁいや、でも、必要なことだもんなと、そうも思った。
Aが大人になるにあたって必要なこと。
中身は昨日までも今日からも変わらずきっと、小さなことではしゃいだり笑ったり拗ねたり泣いたりするAのまんまだけれど、身体はだんだんこうして女の子から女の人になっていくんだな、と。



そんな風に思った瞬間、胸がきゅうっと締め付けられるように痛む。
それは多分恐らく、どういうわけか込み上げる切なさのためだった。






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