baby I love you

けんか 篇 −23歳と12歳− ページ24

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「喧嘩！？」



思わず聞き返して出た大声が、送りの車内に響き渡る。寝ているメンバーもいたことに気付き、声を潜めて状況を尋ねた。電話の向こうの相手、担任の山口先生は少し言葉を詰まらせながら続ける。



「相手の子は何ともないんですけど、Aさんの方はその、顔に少しだけ、怪我をしてしまって…、」



怪我。それも、顔に。
血の気が引いた。少しと言ったけれど、それにしたって顔の怪我なんて。その具合ばかりが気がかりでそこから先はもう先生が話してくれる内容もなかなか頭に入ってこなかった。

分かっているのは、喧嘩の相手が男の子だということ。その子曰くAからいきなり掴みかかってきたということ。Aの方は喧嘩の理由を話したがらないということ。管理不足を謝罪され、家庭でも気にかけてあげてほしい、という話だった。

電話が切れるや否や、後部座席の岩橋と海人が「喧嘩って何！」と身を乗り出して聞いてくるけれど、俺にだって何の事だか分からないのだからそれに構う余裕もない。






エレベーターを降りてから部屋までの僅かな距離を史上最速で駆け抜けた。玄関を開けてから真っ先に辿りついたキッチンで、いつものように夕飯の支度をしてくれているその小さな背中を見つける。肩を掴みこちらを向かせると、ふっくらした頬に小さなひっかき傷があった。
それは心配していたよりは本当にずっと小さく、跡も残らないであろう程度のもの。とりあえずはそのことに安堵の溜息を吐いた。



「なんだよ…、喧嘩って」
「……別に、喧嘩じゃない」



つっけんどんにそう言い放つと、Aは俺の手を振り払って調理に戻ろうとした。何だその態度はと注意しようと思ったところで電話が鳴る。かけてきたのは再び山口先生で、喧嘩の相手、ヒロト君の親御さんが今からうちに謝りに行きたいと言っているとのことだった。女の子の顔に傷をつけてしまったと気にしてのことだとは分かるけれど、それは丁重にお断りしこちらからもお詫びを伝えていただくようにした。明日学校で当人同士話をさせるようにします、と。そもそも喧嘩の原因をつくったのがAということもあるけれど、そうでなくても家に来られるわけにはいかなかった。アイドルの岸優太が小学生の女の子を育てていることは世間に明らかになっていたけれど、Aの保護者が岸優太であることはAの周りには知られないようにしていたからだ。それは、Aと話し合って決めたことだった。




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