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一気にたくさんお兄ちゃんができたみたいで、しかもその全員に一挙手一投足をいちいち褒められ甘やかされるものだからAもすっかり上機嫌だった。夕方になり、「晩御飯時だからそろそろお暇しようか」と廉が言う。Aと目が合った。俺はAのそばに行って、背中を軽く二度叩く。 Aは黙って俺を見上げて、それから躊躇いがちに口を開いた。
「…カレー、つくったの」
「優太くんのお仕事のなかまがくるから」とAの方からそう言うので、彼らが来る前に朝から一緒に仕込んでおいた。できた嫁みたいなことを言うのだなぁと妙に感動する。最近は簡単な料理もできるようになっていた。さすがに一人で火を使わせるのは怖いからキッチンをオール電化にして、それ以来はできる限りで食事を用意して俺の帰りを待ってくれている。普通にめちゃくちゃ助かるし、それが世界一美味いのだ。いやまぁ世界一、というのは完全な俺の主観、贔屓目、親バカ心だ。ぶっちゃけ実際のその味は俺の料理と大差ないくらいなのかもしれないけれど、でもAが俺のためにつくってくれるものに対して、客観的な判断なんてできるわけがなかった。
「たべていきませんか」
Aの控えめな問いかけに5人は顔を見合わせる。それから一斉に驚きの声を上げた。
「カレー!?いいの!?」
「すごい!」
「めっちゃ食べたい!!」
いちいちリアクション良く付き合ってくれて本当ありがたいなぁ。食べてもらえるか心配で硬かったAの表情が和らいで、ふにゃりと嬉しそうに笑う。
カレーもみんなうまいうまいと大絶賛で食べてくれたし、わりと大量につくったそれが鍋の底が見えるまでにお代わりしてくれて、いっぱいお礼を言ってもらえて、Aは終始とにかく嬉しそうだった。
「岸くん食後のアイスは?」と紫耀がふざけて言って、「アイス!」と海人がそれに乗っかる。「ねーよ」と笑って流そうと思ったのにAが立ち上がる。
「わたし買ってくる!」
今日一日、やることなすことたくさん褒めてもらえたのがかなり嬉しかったんだろう。おもてなししたい欲が湧いているらしかった。面倒だ。「Aちゃんウソ、冗談!」と紫耀が慌てて笑うけれどきょとんとしている。
「いらないの?アイス」
「いや!そこまでわがまま言わんから!」
「でもアイスあったらみんなまだいてくれる…」
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!これからも楽しみにしています。 (2019年9月30日 0時) (レス) id: 2bc4477fb2 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - 急といえば急だけど、当然といえば当然な感情な感じです。だって、岸君がずっと側で、愛情たっぷりで、まっすぐで…思春期な女子じゃなくても…なりますよね。益々目が離せません!更新楽しみにお待ちしています。 (2019年9月18日 21時) (レス) id: 6b92244ddf (このIDを非表示/違反報告)
ゆっちゃん(プロフ) - 優太くん目線で楽しませて頂いています。2人が幸せになれる事を祈っています。更新頑張ってください。 (2019年9月16日 22時) (レス) id: 8464dfffe9 (このIDを非表示/違反報告)
みづきてぃー(プロフ) - このシリーズ大好きです!!たまに出てくるじんくんも好きです(笑)もどかしくて、キュンキュンする!続きが楽しみです! (2019年8月16日 2時) (レス) id: 3752f8da94 (このIDを非表示/違反報告)
すばる - すごく好きな展開です!表現力がありお話の雰囲気に一気に引き込まれました。この先二人がどうなっていくのかとても楽しみです。 (2019年8月13日 17時) (レス) id: 62d9628bcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こむぎ | 作成日時:2019年7月16日 18時